#04 付き合い始めた翌朝



 翌日の朝


 登校して教室に入ると、既に来ていたワラシと目が合う。



 ワラシは周りにクラスメイトが居るから恥ずかしいのか、こっそり小さく手を振ってくれた。



 今まで全くモテなかった俺には、こういうの凄く嬉しい。

 ああ、俺も憧れのカノジョ持ちなんだなぁって実感湧くし。



 俺は自分の席では無くそのままワラシの席に向かい、ワラシに「おはよう。昨日遅くまでチャットしてたせいで寝不足だよ」と声を掛ける。


 ワラシは、やはり教室だと周りの目が気になる様で「お、おはよ・・・わたスも・・・」と一応返事はしてくれたけど、普段通りキョドってカミカミで、そして下を向いてしまった。


 俺は、ワラシの肩を「気にするな」という意味を込めて軽くポンポンと叩いてから自分の席に向かった。



 自分の席に着いてから、改めてワラシや周りのクラスメイトたちに目を向けるが、誰もワラシのことを気にしている感じは無く、俺とワラシのやり取りも誰も気に留めていない様だった。


 こんなもんだよな。

 ワラシだけじゃなくて俺だって地味な方だろうし。



 正直言って、俺はカノジョ出来た事大声で自慢して回りたいくらい嬉しいことなんだけど、ワラシの方はあの様子だと大っぴらにするのは不味そうだし、しばらくは教室で会話する時も目立たない様にしないとな。



 そんなことを考えながら、ワラシのことをぼーっと眺めていると、後ろから背中をツンツンされた。


 ビクッとビックリして後ろを振り向くと、後ろの席の宮森さんだった。


 宮森さんは2年になって初めて同じクラスになった女子で、席が前後になってからちょくちょく話しかけてくれる。



「ケンピくん、井上さんと仲良いんだ?」


「え?ああ、ワラシか」


 ワラシと挨拶していたやり取りを宮森さんに見られていた様だ。

 ワラシとは2年で同じクラスになってから今まで教室ではほとんど会話したことなかったし、そんな俺たちが急に会話してると気になる人も居たってことか。

 とは言っても、別に恋人同士っぽい会話はしてないし、誤魔化しておこう。


「うん、小学校でも同じクラスだったことが結構あったからね」


「へぇーそうなんだ。って、なんでそんなにニヤニヤしてるの? 何かいいことでもあったの?」


 むむ

 ニヤニヤしてるつもりは無かったけど、カノジョ出来た嬉しさで自然と笑みが零れてしまっていたのかな。



「ちょっとキモいよ、朝からニヤニヤしてるの」


「え・・・ちょっとヒドくない?ブサイク自覚してる俺に向かってキモいとか言うなんて、俺のガラスのハートがバリバリに割れそうなんだけど?」


「いや、顔のこと言ってないし! ニヤニヤがキモいって言ってるの!」


「あ、またキモいって言った。俺もうマジで泣きそう。家帰って引きこもりたい。引きこもりの理由聞かれたら宮森さんの名前真っ先にあげてやる」


「ちょ!?ケンピくんこそヒドくない!?」


「ブサイクな中学生男子は女子と会話するだけでドキドキ緊張してるのに、そんな見た目ブサイクでも心はシャイでピュアな少年にキモいとか何度も言うなんて、宮森さんって鬼畜だよな。ブサイク相手ならナニ言っても良いとか思ってそうだよな」


「いやケンピくんシャイでもピュアでも無いし! シャイな子が女子に向かって鬼畜とか言わないし!ピュアな子が自分でピュアとか言わないし!」



 ワラシ見ててニヤニヤしていたのを誤魔化すのに、強引に宮森さんを悪者に仕立てあげた。




 しかし、ふと視線を感じワラシの方へ視線を向けると、そのワラシが眉間にシワ寄せてコチラをすっごい凝視している。


 あれは怒っているのだろうか、それとも驚いているのだろうか、たんに何事かと注目しているのか。


 たぶん俺と宮森さんがはしゃいでいるの見て、他の女子と楽しそうにしてるんじゃねーよ!って思ってるのかも。

 もしくは俺と宮森さんが喋ってるの見て、焼きモチでも焼いてくれてるのかな。

 もし焼きモチだったら、ちょっと嬉しいかも。



 俺は、不平不満を訴えている宮森さんをスルーして、前を向いて目を瞑り腕組みをして”宮森さんとは別に仲良しじゃありませんよアピール”をすることにした。


「ちょっと!聞いてる!無視すんなよケンピ!」


 どうやら宮森さんを悪者に仕立てる作戦、やり過ぎてしまったらしい。宮森さんの口調が悪くなってきた。

 とは言え、ワラシに注目されている以上、他の女子と仲良くみられるのは不味いと思うので、五月蠅いけど宮森さんはこのままスルーだ。


 俺は瞑想して宮森さんを無視しながら、昨日ワラシから聞いた下着がびしょびしょになって困っているという話を思い出していた。



 男だって似たようなことがある。

 性的に興奮すると、ガマン汁と呼ばれているカウパー液がおちんちんから分泌されてしまう生理現象だ。


 ぶっちゃけ、昨日ワラシと放課後デートして家に帰ると、俺のパンツも若干濡れていた。

 別にエッチなことを考えたつもりは無いけど、ワラシと手を繋いで歩いて帰っている時からガマン汁でパンツが湿っていた自覚はあった。

 これはきっと、初カノジョが出来た喜びと興奮で、無自覚に脳にエロいスイッチが入ってしまったんだと思う。


 ってことは、ワラシも下着がびしょびしょに濡れるのは、エロいスイッチが入るからってことか。


 っていうかアイツの場合は、四六時中エロいこと考えてそうだから、スイッチ入りっぱなしっぽいよな。

 昨日も表情変えずに凄い勢いで下品なシモネタ喋ってたし。


 そんな昨日のワラシを思い出してほっこりしていたら、後ろの宮森さんから肩をグーで殴られた。


「いってぇ! 何で殴るんだよ!」


「糞ケンピが無視するからでしょ!」


 ぐぬぬぬ

 いくらムカついても俺は男だから女子の宮森さんに手を上げることは出来ない。


 となれば、こういう時の反撃はコレしかない!



「うえぇぇぇん!宮森さんが叩いたぁぁぁ~~痛いよぉぉ!」


 泣きマネだ。

 泣くのは女の武器だが、敢えて逆手にとってこっちが先に泣いてやる。


「痛いよぉママぁ~ん!ぼくもうおうちに帰りたいよぉ~んママぁ~ん!」


 泣きマネしながらチラっと宮森さんの様子を伺うと、宮森さんと目が合った。



 あ、嘘泣きバレた、と思った瞬間、思いっきり振りかぶってからの肩パンチを喰らった。







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