夕食
陰陽由実
夕食
エプロンの紐を後ろ手で器用に結ぶ。
いつも通りに台所に立つ。
作るものは毎日違う。少なくとも連続しては作らない。
いつもの日課。
今日作るのは、夫の好きな焼き鳥だ。
初めはスーパーの惣菜だった。
私がなんとなく買ってきた、お酒のおつまみになりそうなもの。
夕食にだして、2人で普通に食べて。何をどう話したか忘れてしまったが、いつの間にか夫は「君の作ってくれたものも食べてみたいね」と口にした。
料理は好きな方だし、作ってみてもいいかな。
私はたしか、そう返した。
それからだ。夫が私の作った焼き鳥を好むようになったのは。
ネギを軽く洗ってひと口サイズにする。
緑の部分は今回は使わない。味の合わせが悪くなってしまう気がして、使っていない。
切ったネギは一旦皿に移して、今度は鳥もも肉を冷蔵庫から取り出した。
これもひと口サイズになるように切っていく。
右手に持っていた包丁を置いたら、右手だけで串を手に取る。
左手は肉を触っているので、変なところに触れてしまうのを防ぐためだ。
肉3つ、ネギ2つ。交互になるように串に刺していく。
それらをフライパンに並べ、弱火の火をつけて数分焼く。
焼いている間に手を洗い、タレを作る。
しょうゆやらみりんやら、必要な調味料を一度に全て混ぜ合わせるから楽だ。
とろみをつけるのに水飴があったらいいのだが、今日は切らしてしまっていたので砂糖で代用する。
表が焼けたら、裏返す。少しの焼き目が入ればいいので、まだ生焼けくらいがちょうどいい。
また数分待ったところで、フライパンにタレを流し込む。
じゅわぁっ! っと元気な音が響いた。この音は好きだ。
一緒にフライパンに入れることで、タレを煮詰めるのと味が肉に染み込むのが同時にできる。
また少し待って、裏返す。できるだけタレが絡むように。
あらかた焼ければ、完成だ。
皿に盛り付けて、ほかのご飯もよそって。
串を2本だけ置いたのを、写真立ての前に置く。
夫だけが写っている写真。
私は私で、今日の夕食を頂こう。
「いただきます」
大丈夫。
私は1人じゃないから。
夕食 陰陽由実 @tukisizukusakura
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