プライベートなんて知らなくてもいい程の濃い友人関係

柳生潤兵衛

焼き鳥『政』

「よう! 久しぶり」

「元気だった?」


 俺は学生時代によくつるんでいたヤスと、十年ぶりに再会した。

 卒業して十年、SNSでのやり取りはあったが、実際に遭うのは十年ぶりだ。


「それって、本当に友達って言えるのか? どんな仕事をしているのかも知らないんだろ?」


 今の職場の同僚や友人からは、よくそう言われる。

 だけど、俺とヤスにとってお互いのプライベートはどうでもいいことだった。

 まぁ、流石に片方が『金欠で苦しい、メシも食べられていない』とかなら、飯を奢るなり食材を差し入れるなりはあったけど、誰と付き合ってるだの卒業後の進路だのはどうでもよかった。


 今生きているか、これから生きていけるかが分かればそれで良かったんだな。


 俺とヤスは、東北地方の国立大で出会った。

 俺は東北の別の県、ヤスは関東出身で、学部も違う。サークルで知り合ったのだが、俺はどちらかと言えばアウトドア派のグループ、ヤスはインドア派の別グループという感じで、同じサークル内の顔見知り程度の仲だった。


「いや~、車で事故っちゃってさ~。廃車だよ」


 俺が夏の成人式で地元に帰った時に、単独の物損事故を起こした事をサークルの集まりで話していた時、「えっ? なんで知ってるの?」なんて的外れな声がかかったので、声の主に目を向けると、それがヤスだった。


 何言ってんだ? と思いながら話を聞くと、ヤスも同じ時期に自分の車で関東の実家に帰る途中に事故って車を廃車にしたらしかった。

 しかもヤスの事故は、一歩間違えば命にかかわるほどの事故だったらしい。


「お前、何やってんの? あぶね~奴だな~」


 俺は、同時期に俺以上に危ない事故を起こした奴がいたって事で、落ち込んでいた気持ちが軽くなった。

 ヤスもヤスで、似たような境遇の俺がいたって事で、気が軽くなったらしい。


 それ以来お互いの部屋で呑んだり、二人で飲み屋の開拓に勤しんだ。


 見た目も性格も違ったが、ただ会話している時の笑いのツボが似ていたのか、互いのボケやツッコミが2人の中では心地よかった。

 ただ2人で話している時間が面白かったのだ。誰かが入るとそれほど面白くなくなるのだから不思議だ。


 お互い時給のいいバイトをしていたので、週1~2回の呑み代にはそれほど困らなかった。


「どこで呑む?」

「ここも十年ぶりだから、『政』に行こうよ」


 俺から連絡して、大型連休にお互いの休みを合わせて、大学付近まで足を運んだ。

 俺とヤスは、学生の飲み屋街の外れにある焼き鳥屋に向かう。

 その店は、俺が別サークルの先輩に教えてもらった店で、雰囲気が気に入ってヤスとも通っていた店だ。


「らっしゃい」


 オヤジのぶっきら棒な声が俺達を出迎えた。

 焼き鳥をお任せで頼み、この店での笑える思い出話を肴にヤスと酒を酌み交わす。


 お互いのプライベートは知らなくてもいいという関係なのに、俺からの「会わないか?」との連絡に、「いいね」と返してきたヤスは、俺がヤスに何か言おうとしている事には勘付いているようだ。


 俺も、ヤスにいつ切り出そうか迷っている。


「ヤス、実は俺さ、病気が見つかったんだ……長くないってさ」

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プライベートなんて知らなくてもいい程の濃い友人関係 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee

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