第2話 催眠少女

悪用厳禁!!初心者でも出来た催眠術講座!と書かれたスマホのサイトと、隣の列の3席前の男子の後頭部をハルカは交互に見て、少し考えてから悪用厳禁の文字をクリックした。


数日後学校帰りに、ハルカは友達の剣道部のカナと、催眠術講座のマンションのドアの前に立っていた。カナは竹刀を握り締め、ハルカはスカートを握り締めていた。

「カナ、催眠術が始まったらイヤフォンで音楽聴いて!」

「なんで?」

「・・・・え?・・だって恥ずかしいから・・何の催眠術かけてもらうか聞かれたくないし・・」

「わかった・・」

「それと、男の人に変なことされそうになったら竹刀でボコボコにお願いします!」

「ボコボコ了解!」


3、2、1、はい目が醒めるぅぅぅと耳元で、大声で起こされて、ハルカは目の前の日焼けして歯が異様に白い男性を見た。気分はどうですか?かかっている感じしますか?ハルカは、いまいち分からないけど取り敢えず「あ・・はい」って答えた。

「今日は実際に催眠術にかかってもらい、明日は催眠術のかけ方の授業をしていきます。もし催眠術を解きたい場合は明日教えて下さい。では今日はこれで終わりです。お疲れ様でした。」

マンションの一室から高校の制服のまんま出てきた二人を、廊下を歩いてきた通行人が部屋のネームプレートの日本催眠術学会の文字と交互に見た。

「あれ?何の催眠術かけてもらったんだっけ?全然思い出せない。」

翌日は催眠術のかけ方の授業を受けて、帰りの電車でカナとじゃがりこを食べながらハルカは頭の中で催眠術の復習をした。帰宅するとハルカの弟がゲームをしていた。ハルカはすかさず弟のこめかみを右手の親指と中指で挟み「眠くなあぁぁる!」と言って仰向けに倒した。

「痛いよぉ!お姉ちゃん!」

「眠くなった?」

「目が覚めたよぉ!」

練習練習!その後も、ハルカは洗濯物を畳んでいるお母さんを仰向けに倒したり、正座して夕刊を読んでいるお婆ちゃんを仰向けに倒したけど、全然ダメで、最後はソファに横になってビールを飲みながらテレビを見ている、目が1ミリしか開いていないお父さんに催眠術をかけたら見事にかかった!

「子供の頃からやれば出来る子なんだよねー私。」


翌日、学校でハルカはどうやって催眠術をあの人にかけようか朝からずっと誰の声も耳に入らず集中して作戦を練っていた。私の事を好きになぁぁれ!と何度も頭の中で練習した。あの人はスマホゲームに夢中で、放課後も「あともう少しだけ」と言って友達を先に帰らせた。ハルカは二人きりになる瞬間を掃除をするフリをして、彼の後ろの机をズラしたり着々と準備を進めていた。そして、とうとう二人きりになる瞬間が来た。ハルカはゲームをしている彼の前に仁王立ちになり、彼のこめかみに右手を伸ばした瞬間、彼と目が合った。その瞬間ハルカは自分の意思とは関係なく急に言葉が産気づき産声を上げた「好きです!好きです!好きです!大好きです!」と、言い終わらないうちに泣いていた。涙が頬を伝うとき催眠術が解け、あの日、催眠術をかけてもらった瞬間のことを鮮明に思い出した。


「私は臆病なので勇気が出る催眠術をかけて欲しいです。」


おわり


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