第18話 エルフの幼女『ユノ』




「お、お待ちしておりました! 『救世主様』!」


 目の前には耳の尖った幼女が立っている。


 腰まで伸びた綺麗な金髪に少し潤んだ宝石のようなグリーンの瞳。控えめに言っても最高に可愛いが、言葉が聞こえなかったわけじゃない。


「……きゅ、『救世主』……? ひ、人違いです……」

(めちゃくちゃ可愛いが、めちゃくちゃ面倒くさそうだ!)


 背中に背負っているセリアの胸の感触で胸いっぱいの俺は、山岳地帯の麓にある水の都"アクアード"を目指している最中なのだ。


「……えっ? う、嘘……、な、なんで……」


 さらにグリーンの瞳に涙を溜めていく幼女に、尋常ではない罪悪感が押し寄せてくる。


「は、は、は、話だけは聞いてあげよう!」

(無理だ! 可愛すぎるッ!)


 うるうるの瞳の幼女が悲しそうに涙を溜める姿を前にすれば、誰だってイチコロだ。


 もちろん、俺だって例外ではない。





―――【30分前】




 『閃光』で3秒もかからず、水の都の背後に聳える緑一つない山岳地帯に着地したが、そこはさすがの『俺』と言っていいだろう。



ギュォオオオン!!



 降り立ったのはワイバーンの棲家だった。


「ど、どこに降りてるんだよ! セリア!」


「申し訳ありません。『少し』通り過ぎてしまった気がして慌てて止めたのですが……」


 セリアの無表情を見つめながら、セリアに罪は一切ない事を理解する。なかなか距離はありそうだが、山の麓には湯煙が上がっている。


 咄嗟とはいえ『閃光』を促したのは俺だ。

 目的地には着いている。


「いや、悪い! ありがとうな」

(めちゃくちゃワイバーンいるけど……なッ!!)


「ご主人様、セリアは動けません。発動時間は短かったので、30分ほどで動けると思うのですが……」


「だ、だ、大丈夫だ! 心配するな」

(めちゃくちゃいるけどなッ!)


「お気遣い感謝致しますが、心配など一切しておりません。ご主人様なら『翼の生えたトカゲ』など簡単に一蹴してしまうでしょうし……」


「バカかッ! 『ワイバーン』は『Aランク』の魔物だぞ!!」


「……?」


「……」

(信頼の眼差しが辛い……)



 即座に逃げ出したい俺ではあったが、身動きの取れないセリアを守るためにも、ここは踏ん張り所だ。


 それに、ここに降り立った責任はセリアになく、『俺』が引き寄せた可能性が大きいのだろう。


(《身体強化(ボディ・ブースト)》……)


 たくさん居るが、動き自体は目で追えないほどではない。ゴブリンの大群にナイフ1本というわけではないし、《予知(プレディクション)》だけで問題なさそうだ。


(ゴブリンロードの大剣があって助かったな!)



キュオオオオオオオン!!



 耳が痛くなるほどの甲高い咆哮に顔を顰めながらも、空から急襲してくるワイバーンを斬り捨てる。



ザシュッ!!



 首を斬り落としたワイバーンは、ドゴォーンと大きな音を立てて地に落ちてピクリとも動かない。



「「「「キュオオオオオオオン!!」」」」



 複数同時の咆哮と『見えて』しまった鬼気迫る急襲に、少しだけ残されていた余裕は、一瞬で消え去ってしまう。


(ヤ、ヤバい! ヤバい! ヤバい!)

 

 ゴブリンキングのように災厄級ではないが、ワイバーンのランクは「S」のすぐ下の「A」。


 Aランク魔物達は、確実に俺達を餌と認識し、一瞬で「同胞の仇!」と真っ赤な目を血走らせているようだった。


ザシュッ! キンッキンッ! ザシュッ!


 向かってくるワイバーンを斬っては、鉤爪や牙、翼撃での攻撃を防ぎ、斬っては防いでを繰り返す。



「流石はご主人様です」


「……」

(や、やめてぇえ! ごめん! ごめんって! お前らが襲って来たから!! こ、来ないでぇえ!!)


 セリアの声に言葉を返す余裕は一切ない。いつものように躱してしまいたい所でも、俺の後ろには動けないセリアが居るのだ。


 セリアを中心に八方から来るワイバーンを必死に迎撃する。


(セリアが死んじゃう! セリアが死んじゃう! セリアが死んじゃう!! い、いや、俺も死ぬ!!)


 こんな所で死にたくない。

 『オンセン』に入りたい!

 実はまだ一度も入った事ないのだ!


(絶対にこんな所で死なないぞぉおお!!)


 必死の形相で《予知(プレディクション)》を繰り返しながら大剣を振るう俺に、セリアは無表情を崩す事なく少し頬を染めて信頼の眼差しを向け、俺の戦闘をジィーッと見つめているだけだった。


(その目はやめろぉおおお!!)


 心の中で絶叫しながらも、15匹ほどのワイバーンを討った所で、他のワイバーン達は更に山頂に逃げていった。


 その隙に俺は動けないセリアを背負って山を下りていたのだった。


 

※※※※※



 そして木々が姿を見せた山道に入ったところで、この可愛い幼女に出会った?のだ。


「変わった種族ですね。見たことがありません」


 セリアは俺の背中からひょこっと顔を出して呟いた。


(……ん? もしかして、もう動けるんじゃね?)


 俺はそんな事を考えていると、セリアは「あっ……」と小さく声を漏らし、


「ご、ご主人様、もう動けるようです。セリアはご主人様のメイドなのに、ここまで背負って頂いて本当に感謝申し上げます」


 セリアは俺の背から降りると丁寧にお辞儀をした。


「……本当はちょっと前から動けたんだろ?」


「い、いえ。そんな事はありませんよ?」


「……」

(視線外してるし、確実に嘘だな……)


「……ご、ご主人様?」


「……」


「……ゆ、夢のような時間でしたので……、言い出すタイミングが分からず……、本当に申し訳ありません」


 無表情ながら少し頬を染めて慌てて謝罪するセリアに、俺は「ふっ」と小さく笑みをこぼす。


「まぁ、これくらい『閃光』や料理のお礼だと考えれば安いものだ」

(胸も堪能出来たし……、その顔は……可愛いいし!)


「ほ、本当に申し訳ありませんでした、ご主人様。ご主人様のメイドとしてあまりに傲慢で、」


「ハハッ。気にするな。それに、今は『この子』の方が重要だろ? 不思議そうに固まってるじゃないか……」


 俺達は2人で揃って、幼女に視線を向けた。


「……2人は『ご夫婦』なのでしょうか?」


「「……」」


「とても、仲がよろしいのですね」


 ニコッと微笑む幼女の破壊力は半端じゃないが、耳まで赤くなっているセリアに釣られるように俺の顔にも熱が湧いてくる。


「お、お初にお目にかかります。私はご主人様の専属メイドのセリアと申します。よろしくお願い申し上げます……」


 セリアは真っ赤な無表情で、幼女に向かってお辞儀をすると、俺の隣から一歩後ろに控えた。


(……えっ? 間違えられて嫌だったのか!? それとも照れてるだけなのか!? な、なんなんだよ、その反応はッ!)


 セリアの行動に心の中で絶叫していると、次は幼女が慌ててペコリと頭を下げた。


「お、お初にお目にかかります。ぼ、『僕』は『エルフ』のユノと、も、申します。よ、よろしくお願い申し上げます……!」


 おそらく慣れていない言葉に所々噛んでいる幼女を微笑ましく見つめていたが、徐々に疑問が湧き上がってくる。


「エ、エルフって絶滅したんじゃ……?」

(た、確かに歴史の教科書にも『耳が尖っている』と書いてたが……)


「いいえ、エルフ達はみんな隠れているだけです! エルフの里は『多重結界』と『特殊幻術』に守られているので、見つかる事はないのです!!」


「……そ、そうなんだ。……ん?」

(ま、待て待て!! もしかして、そこが俺の"夢の果て"なのか!?)


 俺にとっての夢の国、もとい、『夢の里』の予感と、どう見ても女の子なのに『僕』と言っている『ユノ』の可愛い攻撃にとても胸を高鳴らせた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【あとがき】


 ユノはクリックリおめめが似合います。


「面白い」

「今後に期待!」

「更新頑張れ!」

と思ってくれた読書様、


☆☆☆&フォロー&レビュー!!


 創作の励みになりますので、感想なども頂ければ幸いです。よろしくお願い致します。

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