第6話 〜ロリド・ジャン・オラリア〜 ①
ロリドは荒々しく扉を開けて王宮内の自室に戻った。
――ストロフ家の令嬢に謝罪するのだ、ロリド。
父親からの言葉を反芻しながら、ロリドは椅子を蹴り上げた。
ドガッ!!
慌てて自室に駆け込んできた執事には目もくれず、ロリドは自分の髪を乱雑に掻きむしる。
(何で……なんで私が謝罪しなければならないッ!)
未だ顔の腫れは引いておらず、奥歯が抜けた痛みを抱えているロリドは、王国最大の権力を持つ父の言葉に苛立ちを募らせ、『下賤のクズ』の行動には何も言及しなかった事に憤慨した。
「殿下……。殿下は次期国王にございます。……恐れながら……、陛下の言葉を今一度振り返り、自分を見つめ直す良い機会ではないかと思いますが?」
王族筆頭の執事長オーウェンの言葉は、ロリドの苛立ちを助長させる。
「うるさいッ!! ふざけるな!! あのクズめ……。私は絶対に許さんぞ!」
「……ストロフ公爵家はもちろん、カーティス家は伯爵家とは言え、その内に秘める権力は、」
「うるさいと言っているッ!!」
ロリドは手元にあったグラスをオーウェンに投げつけるが、それは壁に当たり、ガシャンッと音を立てた。
オーウェンは眉一つ動かさずにパンッと手を叩き、後片付けをする執事を呼び寄せる。
「ロリド殿下、陛下のお言葉は『絶対』にございます。くれぐれも先走り、自身の首を絞める事のないようにして頂きたい……」
「オーウェン。貴様、いつから私に意見できるようになったのだ!?」
「……学園での横暴な振る舞いは控えるようにお伝え致しておりました。オラリアの王立学園は、帝国を除けば、世界の縮図……。殿下の行動はオラリアに多大な悪評を広める事でありました」
「……」
「殿下を諭した者が、オラリアの民で本当によかった……。ギルベルト・カーティスは首席卒業生なのでしょう? おそらくは、『ここまで』計算しての行動であります。本当に大した男です……」
「なっ、何だとぉ……!!」
ロリドはギリッと歯軋りをする。
「おそらく、オラリアの悪評を精算するための行動でしょう。学園内で最底辺の身分でありながら、殿下を否定する事で、オラリアの権威を復権したのです! 無数の留学生達に、『この者がオラリアの全てではない』と示したのです」
「……ふ、ふざけるな」
「私の責任でもございます。私が殿下にお付きしておれば、このような事にはなりませんでした」
「……図になるなよ、オーウェン」
「……『ロリド坊ちゃん』。その言葉は、ご自身に向けなさい。陛下の言葉の意味をよくお考えになるのです」
「オーウェンッ!!!!」
ロリドはオーウェンの胸ぐらを掴み上げるが、オーウェンは冷めた視線でロリドを見つめるだけである。
(執事の分際で……、この私に……!!)
ロリドは心の中で憤怒を倍増させるが、王族筆頭執事を勝手に始末する事は出来ない。先程、父に叱責を受けたばかりで、オーウェンを『消して』しまうのが自分の立場を無くしてしまう事は流石に理解していた。
ガッ!!
ロリドは乱暴にオーウェンの胸ぐらを離して、怒りを噛み締めながら小さく口を開いた。
「下がれ……」
オーウェンは綺麗にお辞儀をして去っていく。変化のない表情は、一切、感情が見えず、それがまたロリドを苛立たせた。
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【あとがき】
オーウェンは渋い白髪です。
今後ともよろしくお願いしまーす!
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