強制的に死なされた上に、生まれ変わってから出来た大事な人達を全員殺された私。虐殺の犯人は私の事を歌姫と呼ぶが冗談はやめろ。私の歌は音楽じゃない、お前を殺す為の凶器だ。

コーラを愛する弁当屋さん

第1話 終わりは突然やってくる

「……。」


私の名前は有川明日香(アリカワ・アスカ)。音楽全般が大好きな17歳のLJKだ。いや、正しくはLJKでしたかな。


なんで過去形なのか、それは今の私は赤ん坊だからだ。


え? 夢? 夢だよね? 


そう思ったけど時間が経っても目が覚める気配はなかった。


夢じゃないってことは...これって転生ってやつ?


最近アニメとかで異世界に転生するお話って結構あるけど、まさか自分にも起きるなんて…….

目が覚める前の記憶にあるのは、高校に通学していると、急に気を失って倒れたことだけ。その時に死んじゃって転生したのかもしれない。


自分の身に起きた現象を理解したので、私は今の状況を整理することにした。


1つ、私は転生して赤ん坊になった。

2つ、この夫婦は私の両親らしい。

3つ、この世界でも性別は女。


現時点でわかることはこれだけかな。


転生した以上、もう元の有川明日香としての人生を送ることはできないんだろうな。アニメとかでも元の世界に戻る転生者はいないしね。だったらもうこの世界で生きて行くしかないんだろう。


私はこんなに物分かりがよかったかな? と自分でもびっくりするほどすんなり自分の状況を受け入れることができた。


こうして、私の転生ライフは突然に始まった。


〜時は過ぎて12年後〜


「今日も平和ね〜♪」


この世界に転生してから12年の時が過ぎた。


12歳になった私の日課は、自分の住む街を見て回ることだった。


私が住んでいるのは、デクレという貧民街だ。貧しい人々が寄り添って暮らしているので、標準層や富裕層の奴らが見ていて楽しいものは特にないと思う。


それでも、生まれた時から住んでいる街には愛着が湧くものだ。だから毎日街を散歩がてら見て回るのも案外楽しいと私には思える。


「お、アリア。今日も綺麗な歌声だな!」

「あらアリアちゃん、こんにちは!」

「アリア、今日も元気そうだね!」


私が街を歩いていると、皆が声をかけてくれる。貧民街は助け合いが重要なので住民全員が仲よくするのが暗黙のルールみたいになってるからだと思う。


「みんなおはよう!」


この世界での私の名前は、「アリア・ラプソディ」


名前の由来は、私が赤ん坊の時の泣き方がまるで歌を歌う様だったかららしい。かわいい名前なのでとても気に入っている。


前世では音楽が大好きで、楽器演奏や歌唱などいろんなことをやっていた。その時からの癖で、喋れるようになった頃から暇さえあれば歌を歌ったり、即興で思いついた曲を口ずさんでいた。


おかげでみんなからは、「貧民街の歌姫」なんて称号を付けてもらった。ちょっと恥ずかしいけどね。


「ただいま、お母さん、お父さん」

「おかえりなさい、アリア」

「おかえり、アリア」


日課を終えた私は、自分の家に戻った。この世界の私の両親は夫婦で商店を経営している。だから基本的に両親共に家にいるので私はさびしい思いをしたことはなかった。


「アリア、この後店番を頼んでいいか?」

「うん、大丈夫だよ。どこか行くの?」

「中央都市に商品の仕入れに行くんだ」

「え? いつもと違う日に行くんだね?」

「ああ、仕入れ先から急に期日の変更を頼まれてね」

「三時間くらいで帰ってくるわ。」


両親は毎月最終日の前日に店の商品の仕入れに行っている。だからその間の店番をするのはいつものことなんだけど今はまだ月の半ば、いつもよりだいぶ早いのだ。


まぁ大人の世界には色々あるんだろうね。


そして、両親は中央都市に向かうために家を出た…が、お母さんがもう一度玄関を開けて私に忠告してきた。


「アリア、中央都市の人が来たら歌うのを辞めるのよ?」

「はいはい、わかってるよお母さん」

「何回も言わないと不安なのよ」


お母さんはまだ心配そうな顔をしながら、再び玄関を閉めた。


「……この決まりだけは納得ができないなぁ」


私の住む貧民街の属する国、ポラリス。


ポラリスには謎の決まりがある。それは【中央都市の民以外の楽器演奏、及び歌唱を禁ずる】というもの。破ったら禁固2年という比較的軽い罪だが、その罪で捕まると一生中央都市での音楽鑑賞や楽器演奏ができなくなる。


でも元々この罪を犯すものはほとんどいない。この世界では音楽を楽しみとするのは上級国民だけなので、富裕層以下の民間人は音楽をほとんど知らずに生きているからだと思う。


でも音楽好きの私としてはこの決まりは理解できないし、理解したくもない。救いがあるとすれば貧民街だと中央都市の人間とほぼ出会わないことかな。おかげで普段は普通に歌えるんだけど、たまに中央都市のお役人が視察に来たりするからその点は気をつけないといけない。熱唱してたら後ろにお役人がいたなんてことになったら嫌だしね。


「はぁ…」

ため息をひとつ吐いて、私は家と隣接している商店に出ることにした。



ー店番を初めて1時間ー


「お客さんこないなぁ」


私が店番を初めて1時間、1人もお客さんは来ていなかった。


「いつもなら数人は来る時間帯なのにおかしいなぁ」


店に誰も入らないどころか、店の前も誰1人通らない、これはさすがにおかしい。


そう思った私は店番をやめて、外に出てみることにした。どうせ誰もこないだろうしね。


街に出て辺りを見回したけど、やっぱり誰も外にいないみたい。


「皆、家にいるのかなぁ。」


私は近所の家に行ってみることにした。玄関にある呼び出しベルを鳴らす。


「…….」


誰も出てこない。もう一度ベルを鳴らしても同じだった。


「家にもいないの?」


そう思った私はいろんな家の呼び出しベルを鳴らした。でもどの家も誰1人応じてはくれなかった。


「なんで誰もいないの?...あ」


最後に訪れた家のドアノブをガチャガチャしたら、ドアに鍵がかかってないことに気づいた。


「無用心だなぁ。おじゃましまーす」


一応、中に誰かいないか確かめようと思った私は中におじゃますることにした。


この時の私は、あんなものを見ることになるとは少しも想像できていなかった。


リビングに続くドアを開き中に入る。


「すみませーん、誰かい……え?」


リビングに入った私の目に飛び込んできたものは、この家に住む家族の死体だった...

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