サマー・オブ・ラヴ

松崎

第1回


 僕の住む街はなかなか寂れた港町で、港のあたりは観光客で賑わっているけれど、うちのある外れの方はとても寂れている。 

 僕が彼女をはじめて見たのは、港から北へまっすぐ延びる、街並みが少しづつ寂しくなりだすあたりだった。

 そのときの彼女は、三つ編みをニ本ぶら下げて、僕のまえを伏し目がちに歩いていた。小柄な彼女はどこか寂しげだったが、それは彼女の強い自立心からくるもののように思われた。今となっては、僕は彼女を買い被りすぎていたのだろうと思う。『タクシードライバー』のトラビスのように、何の根拠もない不確かなものに自分のすべてをベットしてしまいたいだけだったのだ。でもその時の僕は、異様に胸が締め付けられるように感じて、今すぐ彼女のセーラー服の肩をつよく抱いてやりたいとまで思った。抱きしめた彼女のすこし温かな肩がすこし震えるのを想像した。

 追い越しざまに彼女の顔を盗み見た。伏し目がちだったから、見えにくかったが、可愛い顔立ちだと思った。太い黒縁の眼鏡が少し不恰好ではあったが。伊藤なら何点をつけるだろう、と僕は考えた。中学時代には、そんなことを無邪気に話し合えたものだ。きっと伊藤はおれの好みじゃないと言って、お前の好みはすこし変わってるというだろう。たしかに彼と僕は多くの点で好みが一致しなかった。唯一合ったのは音楽の趣味で、仲良くなったきっかけも音楽だった。しかし中3の半ばくらいからはなんとなく疎遠になり、すっかり音信不通になってしまった。

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