分かれ道
星ぶどう
第1話
驚きだ。あれが命運を分けたとは。
ある日、俺はバイト先から帰る途中偶然友達に会った。彼は俺と同じように俳優を目指していた。
「おっ、久しぶり。どこ行くの?」彼が訪ねてきた。
「家に帰るんだよ。今バイトの帰り。お前は?お前もバイトの帰りか?」
俺が尋ねると彼は自慢げにこう言った。
「俺、映画の撮影の帰り。キャストに選ばれたんだ。」
「えっ!マジ!」
俺は驚いた。彼と俺は同期だ。2人ともまだまだ卵で、俳優業だけでは到底食っていけない状態だったはずだ。一体どうやってチャンスをつかんだのだろう?俺は彼に聞いてみた。
「そうね。きっかけはあの日に2人で買った焼き鳥かな。」
あるよく晴れた日、俺と彼はいつものように芝居のレッスンを受けて帰っていた。その途中で彼が焼き鳥の店を見つけ、食べたいと言った。俺はその時お腹が空いていなかったので、俺は買わず彼だけももの焼き鳥を一本買った。彼が焼き鳥を受け取ってから俺たちは店の外に出た。するとどうだろう。店の外に出た瞬間、野良犬に彼が持っていた焼き鳥を取られてしまったのだ。少ない収入で買った大事な一本。彼は必死になってその野良犬を追いかけて行った。急だったので俺は走れなかった。そしてその日はそのまま別れた。
彼はしばらく野良犬を追いかけていた。すると野良犬が誤って、くわえていた焼き鳥を串に刺さったまま飲み込んでしまったのだ。そしてその串が喉に刺さり、野良犬はそのまま死んでしまった。これは俺の責任だろうかと彼は思った。そのままにしても良かったのだがちょうどお肉屋さんの前だったので、放っておくわけにもいかず困っていた。するとちょうど肉屋の店主が出てきてこう言った。
「おやまあ、この犬退治してくれたのかい?ありがとうね。最近ずっとこの犬にうちの肉が盗まれて困っていたんだよ。あ、そうだ。お礼にこれもらって行ってちょうだい。」
彼は何が何だかよく分からなかったが、焼き鳥を失った代わりに肉屋の店主からコロッケをもらえたので満足していた。
後でどこかに座ってゆっくり食べようと思い、ベンチを探していたらコンビニの前で喧嘩している2人の子どもを見つけた。
彼はすぐにその喧嘩を止めに入った。事情を聞くとどうやらこの2人は兄弟で、親にお使いを頼まれた。お使いの後、余ったお金でコンビニのコロッケを買おうと思ったが一個買うお金しかなかった。それでどちらが食べるか揉めていたらしい。全く。半分こにするとか違うものにするとかすればいいのに。でも子どもだったので意地を張りたがるのも仕方がないのかもしれない。そう思った友達はさっきもらったコロッケをその子達にあげた。そうすれば2人ともコロッケが食べられる。2人は仲直りをし、一緒にコンビニの前で嬉しそうにコロッケを食べた。結局彼の元には何も残らなかったが子どもの笑顔が見れたので、これで良かったのかなと思った。
子ども達がコロッケを食べていると、2人の兄弟の母親が走ってやってきた。帰りが遅かったので心配になって様子を見にきたらしい。母親が子ども達から事情を聞くと、彼に感謝して何かお礼がしたいと言い出した。彼はさすがに申し訳ないと思い、断った。すると子ども達が言った。
「今度僕たちの学校でさ、学芸会で桃太郎をやるんだ!良かったらお兄ちゃんも見にきてよ!」
彼は困ったような表情をしたが子ども達が嬉しそうに学校名と日にちを教えてくれ、さらに「約束だよ!」とまで言われてしまった。子ども達の母親は彼に謝って、気にするなと言ったが子どもから約束されてしまったので仕方ない。彼は学芸会に行くことにした。
学芸会当日、ハプニングが起こった。1人の先生が鬼の役で出ることになっていたらしいが、その先生が車の渋滞に巻き込まれてしまい劇が始まる時間に間に合わなくなってしまった。小学校の先生方は急いで代わりにやってくれる先生を探したが意外と鬼役は台詞が多く、みんな芝居経験が全くなかったので中々見つからなかった。そんな中彼が自分がやると申し出たそうだ。彼は芝居経験はあったし、台詞を覚えることにも慣れていた。
彼はすぐに採用され、開演まで1時間しかなかったが段取りもしっかり確認し、何とか劇を最後までやり遂げることができた。ただ後で聞いた話だとやはり彼は俳優の卵なので、1人だけ周りと比べて芝居がずば抜けて上手く、浮いていたらしい…。だがそれがチャンスにつながった。
実はその学芸会で雉役をやっていた男の子の父親が映画のプロデューサーだったらしく、今回のこの劇も見にきていたのだ。公演が終わった後、彼はそのプロデューサーに呼ばれ映画出演のオファーを受けた。
「というわけ。いやあ俺も運がよかったな。じゃ俺、明日も朝早くから撮影あって早く寝ないといけないから帰るわ。またな!お前も頑張れよ!」
そう言って彼は爽やかに去っていった。
その後その映画は大ヒットし、彼もその映画をきっかけにブレイクした。彼は人気俳優の仲間入りを果たしたのだ。
今だに俺はバイトをしながら細々と俳優業を続けている。あの時、もし俺も焼き鳥を買っていたら人生は変わっていたのだろうか。
驚きだ。焼き鳥が命運を分けたとは。
分かれ道 星ぶどう @Kazumina01
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