追憶編1
バイトを終え、目黒さんと夕食を取った俺は寝る支度を早く済ませソファに毛布をしき、横になっていた。
数分もすれば、時計の針の音がだんだんと遠退いていく。
体の力もまるで自分で自制出来ないかの如くどんどん抜けていく。
俺は眠気に身を任せ、夢の世界へと旅立っていったのだった。
微睡みの中、俺は一つの夢をみていた。
目の前には自室でふてくされた様に貧乏揺すりをしている中3の時の自分がいる。
「おい!クソビ○チ!何でまた浮気した!」
「さぁ?あんたの下半身が終わってるからじゃない?...ってかこの間、駅前で手を繋いでた女は誰?」
中年ぐらいの男女の怒鳴り声と共にガラスが割れた様な甲高い音が聞こえてくる。
中3の俺はただその音から自分を守る為に枕で自分自身の耳を塞いでいた。
...そうだ。
この頃はいつもこんな感じだった。
母も父も貞操観念が狂っていて、それでこうして周りにも迷惑を掛けていた。
「女の癖にもっともらしい事言ってんじゃねーよ、尻軽が!」
「は?ATMのクズが黙れよ?自分で稼いだ金で浮気されるってどんな気持ち?ねえ?ねえ?」
本当に醜い。
この世の醜悪を一点に集めたかの様な人間性だ。
中3の俺はと耳を塞ぐのをやめ、妹の写真をみていた。
「黙れよ!お前なんてガキがいるから仕方なくキープしてるだけなんだよ!喋るな!口がケツくせーんだよ!」
中3の俺は学習机の引き出しから果物ナイフを取り出した。
ただただ果物ナイフの先端を見つめている。
俺がその姿に思わず戦慄していると意識が体が引っ張られる様な感覚がした。
体の感覚がだんだんと鮮明になっていく。
呼吸がリアルに。
心臓の鼓動も力強く動いてくる。
「...きて~」
どこからか、最近は毎日聞いている声が聞こえてくる。
「起きて~」
この一言で完全に意識が引き上げられた。
目をゆっくりと見開く。
すると案の定、目黒さんが眼前にいた。
「内田くん...おはよ!」
「おはよ~」
「うん...えへへ」
目黒さんはご機嫌なのか、両腕をパタパタとさせている。
「どうかした?」
「うん!これ、朝ごはん...!」
目黒さんが指差した方を見るとテーブルに卵焼き、サラダ、パンなど料理の数々が並べれていた。
焼きたてのパンの香ばしい香りが狭い部屋を包み込んでいる。
「これ...朝、作ったの?」
...料理上手なのは知っていたがそれにしてもである。
「うん!...作り過ぎちゃった、ごめんね!」
「いやいや、作って頂けるだけでありがたいと言うか」
と言うことで俺は久々に人に作ってもらった朝食を楽しんだのだった。
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