第8話 本当によくある勇者召喚⑦

 そんなことを考えていると門が開き、中からさらに数名の兵士が追加で現れた。当然ながらその手には全員武器を持っている。

「貴様、人に化けることができる魔獣ではないのか!」

「ち、違いますよ! れっきとした人間ですって!」

「ならば本当はどこから来たのだ!」

 最初に問い詰めてきた兵士がもう一度同じ質問をしてきた。

 本当はって言われても、本当に森の中から来たのだからなんとも返答に困る質問だ。

 ここは一か八か、転移させられたと言ってみるしかないか。それでダメなら残りのぶどうを食べて逃げるしかない。

 ゴクリと唾を飲み込み、口を開こうとした時だった。


「——待ってください」


 兵士の後ろから女性の声が聞こえてきた。

 驚いたのは兵士たちのようで、慌てて振り返ると危険だと口にしながら声の主を押し止とどめようとしている。

 しかし、声の主は兵士の制止に構うことなく前に進み出ると、俺の前に姿を現した。

「……えっと、あなたは?」

「兵士たちが失礼いたしました。私は防衛都市グランザウォールを治めております、アリーシャ・ヤマトと申します」

「アリーシャ……ヤマト、様?」

 ヤマトって日本名みたいな名前だけど、鮮やかな金髪だし顔は西洋風でこの世界の人と変わりない。瞳の色も髪と同じで日本人ではあり得ない美しい金色をしている……ただの偶然なんだろうか。

 それになんというか、偉い人な気がする。兵士たちが慌てていたのもそうだけど、身につけている洋服がとても整っているからだ。

 真っ白でしわ一つないブラウスに、色鮮やかな緑を基調としたロングコートやスカートのコーディネートは、一般人ではない気がする。……まあ、この世界の普通がわからない以上、単なる勘なんだけどな。

 俺がそんなことを考えていると、ヤマトさんは微笑ほほえみながら右手を上げ、兵士たちにこう告げた。

「彼は魔獣ではありませんし、敵でもありません。速やかに槍を下げてください」

 ヤマトさんの言葉を受けて、兵士たちはすぐに槍を下げてくれた。

「——大丈夫なのか?」

「——まあ、アリーシャ様が言うなら間違いないんだろう」

「——初級職とはいえ、鑑定士って意外と便利だよなぁ」

 兵士たちのやり取りを耳にした俺は、ヤマトさんが俺と同じ鑑定士なのだと知って驚いていた。

 それと同時に助かったとホッと胸を撫で下ろし、これからどうするべきかを考える。

 すると、ヤマトさんがこちらに近づいてきて、耳元でさらに驚きの言葉を口にした。

「……マヒロ・トウリさん。あなたは、異世界から来た勇者様ですね?」

「——! ……ど、どうして、それを?」

 顔を離したヤマトさんは先ほどと変わらない微笑みを浮かべたまま、中へ入るよう促してきた。

 どうして俺が異世界から来た人間だと知っているのか、それはヤマトさんの名前も関係があるのかもしれない。

 何より俺には行く当てがないのだから、この提案に乗るしかないのだ。

 俺は無言のまま歩き出し、ヤマトさんに続いてグランザウォールの門を潜った。


 外壁の内側には俺が見てきた森の中とは全く違う世界が広がっていた。

 ……まあ、当然といえば当然なんだが、シュリーデン国でも王城の中しか見てなかったから、城下町がどんな感じなのかとかわからなかったんだよなぁ。

 グランザウォールは防衛都市ということで物騒な場所かと思いきや、子供を連れた家族も多くいて明るい声が聞こえてくるし、市場にも活気があり客寄せの声があちらこちらから聞こえてくる。

 中には武器を持っている物騒な人もいたのだが、その人たちも笑みを浮かべていることが多く仏頂面の人は少ない。

 俺は田舎者全開でキョロキョロしながら辺りを見ていたのだが、そこにクスクスとヤマトさんの笑い声が聞こえてきたので、恥ずかしくなり下を向いてしまった。

「あっ! ごめんなさい、マヒロさん。その、そんなつもりで笑ったんじゃないんですよ?」

「いえ、その、恥ずかしい行為だったことに変わりはないので」

「私はマヒロさんが可か 愛わいらしいと思っただけなんですよ?」

「……それはそれで恥ずかしいですね」

 あははと苦笑を浮かべると、ヤマトさんも似たような表情を浮かべる。

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