第88話 平穏に過ごす為に


前話からの続きです。


―――――


姉ちゃんが話し始めた。

「しかし困ったわね。あんたが二人共好きだと言っても、あの二人はどちらかにして欲しいんでしょ」

「美里、母さんはそう取らなかったわ。最後には自分を選んで欲しいと言っていた気がする」

「そうだったわ。でもいつまでも今の関係を続けるのはおかしいわ」

「そうだわよねえ」


「男としては羨ましい限りだが。今すぐに決められないなら、せめて卒業までに決めるというのはどうだ?」

「お父さん、無責任な事言わない。こうなっている以上続けるにしても後数か月よ。明人あんたそれをしない?」


「姉ちゃん。難しいよ。選べない」

「じゃあ、二人と別れる?」

「それも無理。何言ってもあの二人が俺から離れるとは思えない」

「大した自信んだけど、確かにその可能性が大きいわね」



「三人共もう夕食の時間になるわ。この話はまた後で。美里手伝って。明人、あなたは先にお風呂に入りなさい」

「分かった」


 俺は風呂に入りさっぱりしたが気持ちはさっぱりしていない。でも久しぶりの家族の夕飯はとても美味しかった。

 話はもう少し自分で考えろという事になった。


 自分の部屋に戻って二人の事を考えていると紗耶香と京子さんから電話がかかって来た。

二人共正月に自分の家の方に来て欲しいという事だ。


 流石にこの状態では無理と言うと、あくまで自分だけと付き合っているという体で来て欲しいという事だ。


 紗耶香の家は何度も行ったが、京子さんの家は一度切り。それも家族がいない時。

流石に一日で二人の所は行けないので、元旦が紗耶香の家、二日を京子さんの家という事にした。京子さんは不満だったようだけど。



 元旦、紗耶香の家に新年の挨拶に行った。紗耶香が出迎えてくれたけど、赤を基調とした素敵な着物を着てお化粧もしっかりしていて、とても綺麗だった。


 おせちも美味しく会話も楽しかった。東京の生活を聞かれたが普段の二人の生活を話したらお母さんが喜んでいた。お父さんの方は複雑な顔だったけど。


 午後から一緒に初詣に行った。おみくじは今年も俺は大吉、紗耶香は吉、今年も腕を叩かれた。




 二日目、京子さんの家に新年の挨拶に行った。京子さんは青を基調として着物を着ていた。お化粧をしっかりとしていて、はっきり言って固まってしまった。そんな俺を見て京子さんは笑っていたけど。


 京子さんの家ではとてもおせちを食べる余裕なんて無かった。父親の方から頭の先からつま先までしっかりと睨みつけられるように見られた。


 言葉も厳しく東京での生活を京子さんが話すと険しい表情になって、とても厳しい印象だった。母親の方はニコニコしていたけど。


 午後早々に京子さんの家の近くの神社に初詣に行った。俺は吉、京子さんは大吉だった。神様によって扱いが違うのだろうか?




 三日に二人に来て貰った。リビングには俺と姉ちゃん、そして紗耶香と京子さんが向かい合って座っている。


 二人共思い切り化粧をして素敵な洋服を着ている。挨拶に行った時とはまた違った印象だ。


俺は二人をしっかりと見ると


「今日は紗耶香も京子さんも来てくれたありがとう。俺の気持ちを素直に言う。

 二人共好きだ」


「「えっ!」」


「「明人…」」


 俺は紗耶香の方を向いて

「聞いて。俺は紗耶香の事が好きだ。優しくて、俺の我儘聞いてくれて、俺を大切にしてくれている。今紗耶香と別れるなんてとても出来ない」


 今度は京子さんの方を向いて

「京子さん、俺はあなたの事が好きだ。優しくて俺を包み込む様に大切にしてくれる。あなたとも今別れるなんて出来ない」


 今度は二人と向き合う様にして

「だから、もう少しこのままの関係で居たい。どっちか選んでと言われても俺には出来ない。

 こんな煮え切らない俺が嫌だというなら悲しいけど俺から去ってくれていい」


 紗耶香が

「明人いつまでこのままなの?」

「ごめん、分からない」



 誰も話さなかった。



………………。



 どの位時間が過ぎたか分からないけど


「明人、分かったわ。私このままでいい。でも必ず最後は私を選ぶようにして見せる」

 最終手段だってある。

「京子さん」


「明人私も。でも最後に選ばれるのは私」

 分かっているわよ鏡さん。最終手段はあなただけの特権じゃないわ。



 この二人。考えているのね、決着をつかせる方法を。でも同時だったら…。



「明人、お姉ちゃんはっきり言うね。この二人に最終手段を取らせる前にあなたが判断しなさい」

「最終手段…?あっ!」


 紗耶香と京子さんが下を向いて赤くなった。



 その後も、紗耶香は京子さんと俺のアパートが近い事に文句を言って、俺と京子さんが会う時間を制限させようとしたが、京子さんは受け入れず話が平行になり始めた頃


 紗耶香が俺と同棲すると言いだし始めた。

 それを聞いた京子さんが自分のマンションに俺を住ませるとか言い始め、決着つかないでいた。


 これを聞いていた姉ちゃんが

 一ヶ月で泊まる日を同じにするという、頭の中に疑問符が山の様に浮かぶ妥協案を二人に提示した。

 紗耶香と京子さんは全く納得がいかないという顔で重々承知したけど…。


 俺の生活が全く無視されているんだけど。どうして?



 三日の午後三時過ぎ、紗耶香と京子さんと一緒に東京へ戻った。紗耶香は中央線四谷で降りるけど俺と京子さんは一つ前の飯田橋で降りる。




飯田橋で紗耶香が別れ際に

「明人、明日から学校だよね。今週土曜日会えない?」

 京子さんの前でいきなり言って来た。京子さんを見るとただ無表情。


「良いよ紗耶香」

「分かった。ありがとう。今日夜電話するね」

「分かった」

 まるで京子さんの存在を全く無視して言って来る。


「じゃあ、またね明人、鏡さん」

「ああ、またな」

「さよなら、一条さん」

 京子さんちょっときつい。



 京子さんと飯田橋で南北線へ移動しながら

「明人、日曜日は私のマンションに泊ってね。次の日の着替えや準備は持ってくればいいわ。偶には一緒に大学へ行きましょう」

「分かりました」


 そして二人で改札を出て俺のアパートの下で

「明人、荷物おいてきたら私をマンションまで送って。エントランスで待っている」

「えっ、でも」

「もう十分暗いわ。私を一人で帰らせるつもり」

「分かりました」


 俺は京子さんをマンションまで送った後、帰ろうとして……。


 帰れなかった。


―――――

 

ふむっ明人、全部自分の身から出た錆ですよ。


次回をお楽しみに

 

面白そうとか、次も読みたいなと思いましたら、ぜひご評価頂けると投稿意欲が沸きます。

感想や、誤字脱字のご指摘待っています。

宜しくお願いします。

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