ステ振り失敗したまま異世界転移~なんとか冒険者になれたので、ハズレスキル頼りで無双することにします~

アカバコウヨウ

プロローグ バイト戦士、ステ振りに失敗して異世界に行く

 佐藤拓也さとうたくや、三十歳。

 職業はバイト戦士、趣味はゲーム。


 そんな佐藤は先ほどまで、部屋でゲームをしていた。

 ちょうど今日でゲーム内でのレベルがカンストしたので、ステ振りをしていたのである。


 レベルカンスト時のみに、一度だけ使える課金アイテム。

 ステータス振り直し玉。


 それを使えば、24時間の間ステ振りし放題という最強アイテムだ。


 故に佐藤は様々なステ振りを試した。

 最強と思われるステ振り、最弱と思われるステ振り。

 ネタ方面に振り切ったステ振り。


「……で、気が付いたらこの有様か」


 佐藤は見知らぬ場所に立っていた。

 見渡す限りの大自然――鳥が鳴き、健やかな空気を纏う景色。


「えーっと、やたらリアルだけど、ゲームやってる間に寝ちゃったのかな。コントローラー握ってゲームしてたのに、ノータイムでいきなりこんな場所来られるわけないし」


 つまり、これは夢なのである。

 と、佐藤は夢ではありえない現実的な触覚を無視し結論付ける。

 しかし、その時。


「えっ……なんだ、これ?」


 まるでゲーム画面の様に、視界の端に手紙のマークが表示されたのである。

 佐藤が恐々と、視界の端のマークの方へ手をやると。


「っ!」


 なんと、空中にゲームのメニューウィンドウの様な物が浮かびあがった。

 ステータス、装備などなど様々な項目があるそれ。

 けれど、それは自動的に操作され受信メッセージという項目を映し止まる。

 

 しばし、佐藤は呆然とするがすぐに自分を取り戻し。


「い、いや。驚くことはないか。これは夢なんだし、ゲームみたいな事が起きても何もおかしくない。リアルとゲームが混在した世界……よくある異世界転移みたいで、楽しい夢じゃないか」


 せっかくなので、この夢を楽しむことにしよう。どうせ目が覚めれば、また辛くてつまらない毎日が始まるのだから。


 佐藤はそんな事を考えながら、この一時は夢の住人になり切る決意をする。

 さて、そうと決まればメッセージである。


「さっき受信したメッセージにはどんな事が書かれて……ふぁ?」


 佐藤はまたも呆然としてしまった。

 なぜならば、メッセージにはこう書いてあったからだ。



●佐藤さんへ

この度、いつも頑張っている佐藤さんへご褒美を上げる事に決まりました。我々女神議会は、佐藤さんの夢である異世界行きを許可します。このメッセージを読んでいる頃には、佐藤さんは異世界――あなたがよくやっていたゲームそっくりの世界への転移を楽しんでいるはずです。

更に、ゲームでのステータス及び容姿をそのまま引き継ぎさせております。

話は以上です、では楽しんでくださいさようなら。

女神より



「っ……はっ」


 息が苦しい。

 心臓が自分のものでないかの様に早鐘をうつ。

 視界がぐにゃりと歪む。


 どうしようもなく嫌な予感がする。


 佐藤はこれがまだ夢だと思いつつも、震える手でメニューウィンドウを操作。その予感の根源であるステータス画面を開く。

 そこにあったのは――。


 名前:アッシュ 職業:剣聖 レベル:100

  体力:9999 魔力:1 物攻:1 物防:999 魔攻:1 魔防:999

  素早さ:1 運:1

  保有スキル:変換(一時的に対象を好きなものに変更することが出来る。このスキルを使用する場合、対象の質量によって消費魔力と必要魔法攻撃力が代わる)


 どう考えてもステ振りミスったよね!

 の、模範的なキャラクターが映っていた。


 佐藤……もとい、剣聖アッシュ(十六歳)の嫌な予感とはすなわちそれだったのだ。

 ステ振り色々試しているタイミングで転移させられたのならば、クソステ振りのタイミングで転移させられた可能性も充分あるのではと。


「は、ははは……はぁ。当然もうステ振りできないし……」


 終わった。

 佐藤は思わず頭を抱えるが、すぐに無理矢理笑顔を作って。


「よ、よし! とりあえず街まで行って宿屋で寝よう。これまだ夢かもしれないし」


 こうしてアッシュの旅は始まりを告げるのだった。

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