第188話 不作の原因

「夜遅くに訪ねて大変申し訳ない。今少し話す時間を頂けませんか?」


 ピザをエルフ達にお腹いっぱい振る舞った夜、一泊滞在用にと借りているツリーハウスを村長さんが訪ねてきた。


 私達に貸し出されたのは2階建ての大きなツリーハウス。先代の村長さんが使っていた家で、主人亡き後は空き家になっていたらしい。


 ヒューゴとリアム君は疲れたのか2階で休んでる為、今ここにいるのは私とクレマン、それと影で休んでいるコタロウとリュウだけだ。


「大丈夫ですよ。何かありましたか?」

 村長さんを中に通し椅子にかけると、クレマンがサッと紅茶を出してくれる。相変わらず準備が良いね。


 美味しい紅茶で喉を潤し一息ついていると、突然村長さんが椅子から立ち上がり、床に座ったかと思うと頭を下げた。いや違う。正しくは土下座だ。


 すぐに土下座と判断できなかったのは、美形エルフの土下座という衝撃的過ぎる光景に、頭が拒否した為だと思われる。


「まずはお礼を言わせて下さい。里の者達全員が腹を満たすほどの料理を振る舞って頂いて、本当にありがとうございました!あんなに満たされた顔をした皆を見たのは久々です。」

「あ、あ、あ、頭を上げて下さい!私がやりたくて勝手にやった事なので、気にしないで下さい!」


 お腹を空かせた子ども達の満たされた笑顔が見たいという自己満足の為にやっただけ。同盟を結ぶ為の作戦だと揶揄されるかもなんて思っていたのに、予想外の展開に思わずどもってしまう。


 私が困り果ててオロオロしていると、クレマンがそっと村長さんに手を貸し立たせると、椅子に座るように誘導する。

 椅子に座り直した村長さんは、今までの辛い現状を話して聞かせてくれた。


 村長さん曰く、このエスプリの森は魔物は沢山居るがどれもエルフ達には手強く、この集落全員が食べる量の魔物は中々狩れないらしい。かといって野菜も実らない。


 たまに大物が狩れた時に肉以外を人里で換金し、そのお金で野菜や果物を買って食いつないでいたらしい。


 実は野菜が実らない理由を私は知っている。子ども達に茶畑を見せてもらった時に聞いた話しが不思議だったから、こっそりあちこち鑑定してたんだよね。


 結果は茶畑が原因。というより、茶畑がある場所にとある魔法がかかっていた。茶葉に全ての作物の栄養がいくように作用する魔法が。


 どうやって木と作物を判別しているのかは分からないけど、こんな魔法がかかっていたら野菜が出来ないのも当たり前だ。


 この里に来るまでに倒した魔物は、確かにどれも強い部類だったし・・・詰んでない?この集落。


「大変言い辛いのですが、ここでは茶葉以外の作物は育ちませんよ。」

「・・・それは何故かお聞きしても?」

「良い茶葉だけを育てる為に、他の作物へは栄養がいかないように魔法がかかっているからです。」

「そんな・・・・・。」


 村長さんは私の説明を聞くと、がっくりと肩を落とし項垂れてしまった。長く尖った耳も下を向いてしまっている。


 きっと今までずっと野菜を育てる為に、あれこれ手を尽くしてきたはず。それが全て無意味だったという現実を突きつけられれば、こうなってしまうのも無理はない。


 今回この集落に来たのは、エルフと同盟を結び、全方位からシューレ王国を包囲するため。・・・だったんだけど、このままでは同盟どころの話ではないよね。


 最早この集落では生きていけないだろう。このまま住んだとしても待っているのは、飢えて死ぬ未来だけだ。


「村長さんに提案があるんだけど、温泉街に皆で来ちゃう?」

「・・・・・え?」


 カティアの森は広く、まだまだ温泉街を広げても森全域にしたら微々たるもの。私達としても働き手が増えるし、お互いにとって利があると思う。


 何よりせっかく出会えたこの縁を大切にしたい。エルフ達が温泉街に来てくれたら、リアム君も喜ぶだろうしね。


「よろしいのですか?私達の集落は小さいとはいえ、全員を受け入れるとなるとかなりの人数になると思うのですが・・・。」

「広さや食料に関していえば、全く問題ありません!あるとすれば住む家ですが、それも収納で移動させれば大丈夫だと思います!私が責任を持ってお手伝いします!!」


 いつの間に下りてきてたのか、リアム君が目をギラギラさせながら部屋に入って来て力説する。


 ・・・そうか、収納で移動可能だったか。今まで転移で移動させてたけど、人が居ない建物なら収納可能だ。しかもそのやり方の方が楽な気がする。


 今まで気付いてたけど言わなかったのは優しさですか!?私以上に周りの方が私の能力の使い方が上手いのは何でかな。



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