第169話 忍び寄る脅威の気配
視察団ご一行様は数日滞在し、それぞれが国へと帰って行った。といっても馬車で帰った訳ではなく、転移でササッとお送りしました。
滞在中は4人とも行きたい所、したい事が違う為、自由行動にした。せっかくなら温泉街を楽しんで、日頃の疲れを取ってもらいたいからね。
ガンドール王はすっかり温泉にハマったらしく、日に何度も浸かっては楽しんでいた。
私のスキルでツヴェルク王国に温泉を作ってもらえないかと打診もされたけど、自分の目の届かない所では管理しきれないからとお断りさせてもらった。もし誰かに悪用されたらと思うと、責任が取れないからね。
私が断りを入れる事で、同盟を見直すと言われるかとも思ったけど、どこかの国の王とは違いガンドール王はそんな狭量な王ではなかった。
むしろ笑って「 無理を言ってすまなかった。」と謝罪までしてくれる程。どこかの国の王と比べた事が申し訳無くなるよ。
そんな心の広い王様は、温泉に入る時以外の時間の多くを、級友のギムルさんの工房を訪れて鍛冶談義に花を咲かせていたそうだ。
久しぶりに槌を握って武器を作ったりもして、随分楽しんでいたみたい。ドワーフは職人集団とは知っていたけど、まさかガンドール王までが鍛冶をするとは思わなかったよ。
カルロさんは教会や孤児院、学舎に毎日足を運んでいた。特に大人も学べる学舎に興味を持ったみたいで、実際の授業にも参加していた。
アマリア聖王国に帰ったら取り入れたいと嬉しそうにしていたので、きっとアマリア聖王国の識字率も上がるだろう。
そして足繁く足湯に通う姿を見たという報告も入っている。ゼノス様に会いたかったんだろうけど、残念ながらあの日以降ゼノス様には会えずにいたらしい。
マイルズさんはカティアダンジョンから帰って来ていた冒険者パーティー【 白い誓い 】と、久しぶりの再会を果たした。
涙ながらに駆け寄るマイルズさんに、照れくさそうに、でも嬉しそうに笑っていた白い誓いの面々。
お互いが信頼し合ってる仲間というのが、見ている私にも伝わってきたよ。あの時助ける事が出来て、本当に良かった。
一頻り無事を喜び合った後は、カティアダンジョンの情報を白い誓いから聞き、目を輝かせていた。
アマリア聖王国に戻ったら、白い誓いからの情報提供として報告する様だ。温泉街に冒険者ギルドがあれば、すぐにでも実績にしてあげられるのにな。
イザヤさんは・・・多分今回視察に来た誰よりも精力的だった。他の3人はある意味旅行気分だったと思う。ゆったり温泉に浸かって、のんびり温泉街を見て回ったりしていた。
だけどイザヤさんは、全ての店に私を連れて足繁く通い、少しでもアマリア聖王国に持ち帰りたいと粘り強く交渉してきた。
・・・・・うん。もうあれは交渉なんかじゃないよね。断る事に疲れ切った私に、落とし所を引き出させてたよね。イザヤさん・・・恐ろしい。
結局シフォンケーキとパウンドケーキ、それから唐揚げのレシピを登録する事になった。それに伴ってシフォンケーキ型とパウンドケーキ型を、ローマン商会から卸す事まで約束させられたから、さすが抜かりがないというか何というか・・・。
そんなこんなでそれぞれがしっかりと温泉街を堪能し、帰国したのだった。
いやー・・・本当に疲れたな。暫くゆっくりのんびりしたいな。
「今日は魔道都市エテルネへ行って来て下さいね!」
「・・・え?」
視察団ご一行様を送った翌日、大熊亭でコタロウとリュウと一緒に料理長が作ってくれた朝食を食べていると、リアム君が突然やって来て私に告げた。
確かに同盟を結ぶのは早い方が良いのは分かるけど、昨日までイザヤさんに連れ回さされていた私が1日くらい休んでも良くないでしょうか?
「実はシューレ王国とエールランド帝国に動きがあると、今朝報告を受けました。」
「動きって・・・。」
「この温泉街を自国の物にしようという動きです。ここを手に入れれば、どこの国にも攻め込みやすくなりますからね。」
各地に潜り込んでいるクレマンの部下から、鳥を介して連絡が入ったらしい。
最近は冒険者が温泉街やカティアダンジョンを目指して来る関係で、以前より魔物の数は若干減っている。今が好機とでも思ったのか、S級冒険者にも声を掛ける動きもあるようだ。
「え?今そんなに危ない状況なの!?昨日までのんびり視察団が来てたくらいなのに!?」
「そんなになんですよ。だからエテルネとの同盟を急ぎたいんです。」
私が気付かない内に、皆が動いてくれてたんだな。本当にありがたい。
同盟は急務として、他にも何か私が出来る事はないかな?
私に出来る事は料理や魔道具のアイディアを出す事、温泉を作る事、変身する事、転移する事、それと全属性の魔法を使う事・・・。これじゃない!?能力を授かってから数えるくらいしか魔法を使ってない。
じっくり考えたいけど、今は同盟を組む事が先決。魔法についてはその後考えよう!
「護衛はいつもの様にコタロウとリュウにお願いするとして、他には」
「私が参ります。」
いつの間に来てたのか、クレマンが被せるように名乗りを上げた。さすが元暗部の隊長さん。気配を消すのが上手い!決して私が鈍感という事ではない!・・・はず。
急いで朝食を済ませ出発準備を整える。コタロウとリュウとの触れ合いタイムが短くなり、悲しそうな料理長とリアム君に見送られながら、いざ魔道都市エテルネへ!
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