第170話 着物

 今回は豪華な見た目の馬車に乗って、魔道都市エテルネへ。いつもの様に歩きで良いと思ったけど、こういうのは体裁を取り繕う物だと言われた。なので私の服装も普段着とは違い、エルフ三姉妹力作の着物を着ている。


 雑談ついでにポロッと話した着物を、ここまでのクオリティで作り上げているとは思っても見なかったよ。薄い水色の生地に、桜の花をあしらった刺繍がしてあってとても私好み。


 朝食後支度をしている時に突然やって来て、有無を言わさず着付けられた時は驚いたけど、こんな綺麗な着物は日本でだって着た事がない。これは気合いが入っちゃうってもんだよね。



 入国門を潜ったら寄り道はせず、ガンドール王が書いてくれた紹介状を持って魔道王が住まう魔道宮へと向かう。ちなみに入国門ではさすがに絡まれなかった。少しだけ期待・・・なんかしてないよ。


 魔道宮に向かう道すがら、クレマンが魔道都市について話してくれた。何分魔道都市についての私の知識は、初代賢者が最後に身を寄せた国。魔法使いが多い国。ぐらいのあってないようなもの。


 これから同盟を頼みに行くのにさすがにそれはまずいと思ったのか、御者をカイに任せたクレマンは私と一緒に馬車に乗って、魔道都市についての必要最低限の説明をしてくれた。


 魔道都市はシューレ王国やエールランド帝国とは違い、血統主義ではないため王族はいないが、エテルネ国内で1番魔力が強い人が王になる。だから全ての国民に王になる可能性があるんだそうだ。


 そのため魔力が強い人は魔道学校で無償で学び、卒業後は魔道士か魔道具師になり、魔道宮で日夜魔法や魔道具の研究に励むらしい。


 歴代の魔道王は例外なく魔道学校を卒業している為、魔道学校に入学すればエリートコースまっしぐら。ようは魔力至上主義者達の集まりって事だね。


 しかし現在、どの分野の研究も思うように進まず停滞中・・・と。だから今回持参したこの冷凍庫付きの冷蔵庫に食いつくはず!何としてでも同盟まで持って行かねば!



「桜様、もうすぐ着きますよ。」

 御者台に居るカイから声が掛かり、カーテンを開けて外を見てみると、何棟もの塔がくっついて出来たかのような大きなお城が見えてきた。


 いよいよかと思うと、さすがに緊張してくる。何せ全く面識の無い国に同盟を頼みに行くのは人生初。緊張しない方がおかしいと思う。


 さて、そろそろMAPでの警戒レベルも上げておこう。ガンドール王の紹介状があるとは言え、お城の中は何が起こるか分からないからね。


 魔道宮に着くと、杖を持った門番さんが立っていた。大体どこの国の門番さんも、剣や槍を持っていたから珍しい。さすが魔道都市!門番さんも魔道士なんだね!


「何用で魔道宮へ参った?」

「こちらはカティアの森に新しく出来た国【 温泉街 】の国主である桜様です。本日は魔道王様へご挨拶と、急ぎのお話があり参りました。事前に連絡が出来なかったお詫びとして、当国で開発した珍しい魔道具も持参しております。」


 珍しい魔道具という言葉に、門番さんの目がこれでもかと言うほど見開いた。少し血走っていて怖い。


「確認して来るから、ここで少し待て。あ、いや、お待ち下さい。」

 言うやいなや、走って行く門番さん。でもそんなに早くはない。普段走ったりしないんだろうな。


「食いつきましたね。」

「予想以上の反応だったけどね。」

 思わず顔を見合わせてニヤリと笑ってしまう程に手応えがあった。それほど研究が煮詰まっているってことなんだろうけど、むしろこちらとしては絶好の好機。このチャンスを逃す手は無い!


 暫く待っていると、城の中からローブを着た魔道士っぽい人達がわらわらと10人近く出てきた。そして門番さんに先導され、一生懸命走りながらこちらへ向かってくる。・・・が、決して早くは無い。


 それでも必死で走って来た結果

「ぜぇぜぇ・・・こ、こちらが・・・珍しい・・・・・はぁはぁ・・・魔道具を・・・お持ち下さった・・・はぁはぁはぁ・・・・・。」

「はぁはぁはぁ・・・お待たせ・・・致し・・・はぁはぁ・・・ました・・・。」

「ま、魔道・・・王が・・・・・はぁはぁ・・・お会いに・・・なると・・・・・ぜぇぜぇ・・・。」

 息が切れて、話しどころでは無かった。



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