第164話 視察旅行スタート

 ツヴェルク王国では転移魔法を見せていた為、入国門前まで直接転移する。隠さなくて良いってとっても楽だね。


 入国門の前に転移するといつもと様子が違う。いつもは門番さんが2人立っているだけなのに、今日は門番さんだけじゃなく、護衛騎士を連れたガンドール王とレギンさんが立っていたからだ。


 えっ?何でもう待ってるの!?約束した時間より、早めに来たはずなんだけど・・・。しかも何で王自ら門の前に立ってるわけ!?


「お待たせしてしまい、申し訳ありません!」

 慌てて馬車を降りて駆け寄ると、レギンさんが苦笑しながらガンドール王を見ている。


「いえいえ、桜さんは悪くありませんよ。時間より早いくらいです。ただ王が部屋では待っていられず、ここで待っていたしだいです。実は温泉街に行かれる今日この日をよほど楽しみにしていたらしく、昨夜は一睡も出来なかったそうです。」


 えぇぇぇぇぇぇ。遠足前日の子供ですか!!!って事は、私が時間を間違えた訳ではなく、待ちきれずに皆を巻き込んでここで待ってたって事かな!?


「レギン!余計な事を言うでないわ!さあ桜よ、早速温泉街へ参ろうか!!!」

「は、はい!ただいま!!」

 私の返事を聞く前に、さっさと馬車に乗り込むガンドール王。イザヤさん達について説明する間もなく、ツヴェルク王国を出発する。まあ、温泉街に着いてから説明すればいっか!


 斯くして、4人の珍道中・・・もとい温泉街の視察旅行が始まったのだった。




 温泉街の入国門前に転移し、まずは外から温泉街の全体を見てもらおう。カティアの森の中にあるって事を、より実感してもらう為でもあるんだけどね。


「おぉぉ!!!本当に森の中だぞ!!!ここが高ランクの魔物が跋扈するカティアの森か!!!」

 今にも飛び出していきそうな勢いで、馬車の窓に齧り付いている。初めて電車に乗った子供みたいで、思わず笑ってしまった。


「馬車を置いて徒歩で温泉街を見て回りたいと思うのですが、よろしいですか?」

「ああ、構わん!その方が温泉街を堪能出来るってもんだろう!!」

 本来なら王族を歩かせるなんて言語道断!って怒られそうなものだけど、思ってた通り、ガンドール王は柔軟な考えの持ち主だね。


 話を聞いていたクレマンが馬車のドアを開けると、ガンドール王は飛び出すという表現がピッタリの勢いで馬車を降りる。そして何を思ったのか私に手を差し出してくる。


 こ、こ、こ、これは!エスコートというやつですか!?意外すぎるガンドール王の行動に驚いたけど、平静を装って手を乗せてみる。そしてそのまま手を引かれる様に馬車を降りる。


 あぁぁぁぁぁ・・・。現代を生きるアラフォーには恥ずかしすぎる!ガンドール王にお礼を伝え、そっと離れる。このまま温泉街の中までエスコートされるのはさすがに無理!!!


 イザヤさん達も馬車を降りてきたので、2台の馬車をホセに預け、いざ温泉街視察へ出発!

 イザヤさん達の表情が若干曇ってる気がしないでもないけど、とりあえず体調が悪いとかでは無さそうなので今はスルー。


 そういえばこうやって改めて隅から隅まで見て回るのは久しぶりかも。最近は冒険者も増えてきて、温泉街全体が賑やかになってきたなぁ。


 相変わらずここに辿り着く冒険者は瀕死の重傷を負ってる事も少なくないけど、警備隊の詰め所に常備してある傷湯で事なきを得ている。備えあれば憂いなしってね!


「桜!この街の道は変わっているな。石のレンガか?ん?うおぉぉぉぉ!!!あそこに見えてるのはローマン商会じゃないのか!?」

 私が少し物思いにふけっている間に、ガンドール王はどんどん先に進んでいた。その後ろをイザヤさん達が付いて歩いている。


「そうですよ。入ってみますか?」

「もちろんだ!!!」

 ウキウキした様子でローマン商会に入って行く4人。まだ来たばかりだって事覚えてるかな・・・。初っぱなから買い込む気じゃないよね!?


 4人の後を追ってローマン商会に入ると、イザヤさんがさっきまでの暗い顔とは裏腹に、活き活きとしている。軽快な足取りで商品を見て回っているその目は、もはや金貨にしか見えない。


 このままだとローマン商会だけで1日が終わりそうな予感・・・。しまった・・・完全に順番間違えたな。

「まだまだ見て回る所があるので、買い物は自由時間にお願いします!!!」

「「「「 えーーーーーーーー・・・。」」」」


 不満たらたらな4人を、半ば強制的にローマン商会から追い出す。今日1日で温泉街見て回れるかな・・・。


 

 

 

 

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