第121話 温泉街へ連れ帰る
暫く談笑しながら待っていると、複数の足音がこちらに向かって走ってくる音が聞こえた。
扉を開けて入って来たのは、さっきの副支配人と彼より着飾った小太りの男。
鑑定するまでもなく、この奴隷商の支配人だろうね。
「貴方様が沢山奴隷を買って下さったお嬢様ですか!ありがとうございます!お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「はぁ。何で名乗らなきゃいけないの?必要ないでしょ。」
「えっ?」
まさか名乗りを断られるとは思ってなかったのか、明らかに挙動不審になる支配人。
私が大金を持ってたから、家も金持ちだろう。たかってやろう。っていう魂胆が見え見え過ぎて、笑いも出ないよ。
「そう!奴隷達を乗せた帆馬車を、どこに向かわせたらよろしいですか?」
「必要ないわ。御者ならここにいるから。」
さっき話しかけて来た強面のおじ様に視線を向ける。すると彼は頷いて、後ろに居た男性に目で合図する。
「私が御者を努めます。」
「チッ。黙れ!奴隷の分際」
「彼はもう私のよ。その彼を怒鳴るのがどういう事か、分かっててやってるのよね?」
「い、いえ・・・申し訳ありません。」
特に権力とかありませんけど、ちまちまと嫌がらせしちゃうよ。はったり万歳!
尚も名前を聞こうと必死で食い下がる支配人を押しのけ、何とか皆を帆馬車に連れて行く。病気や怪我で歩きにくい子達に皆が手を貸してくれたおかげで、何とか帆馬車に乗せる事が出来た。
「さぁ、帰ろう!」
意外にも帆馬車は2台準備されていた為、先頭をカイ。2台目はさっき立候補してくれた彼が御者を務める。そして私もその隣へ座る。
エールランド帝国を出る門の所で、揉めたり時間がかかったりするかと思ったけど、先に根回ししてあったのか、すんなり通る事が出来た。
多分自分達の手の者がスムーズに通れる様に手を回しておいたんだろうけど、そのお陰で楽に通れたのは嬉しい誤算だね。
「あの、お嬢様。付けられてます。」
「うん、知ってる。大丈夫だからこのまま進んで。」
「は、はい。」
暫くそのまま走り、周りに他に人が居ない場所まで来た所で、水魔法で追跡者の真上に大量の水を落とす。
ザッパァァァァァァァァァン!!!
「「「うわぁぁぁ!!」」」
あ、ちょっと多すぎたかな。立ち上がったし、まあいっか!
最後の仕上げに、火と風の魔法を使って雷を作り、水たまりに向けて放つ。威力はスタンガンレベルで。
バリバリバリバリバリバリバリ
「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」」
あれ?強すぎた?でも印が消えてないから大丈夫!生きてる!
とりあえずこれで私達を監視してる人間は排除出来たね。MAPでも確認済み。
という事で、帆馬車2台まとめて拠点へ転移する。場所は厩舎前。
「とうちゃーく!」
馬車から降りて、背伸びをする。この世界の馬車はガタガタ揺れるから、体があちこち痛い。
私の姿を見つけたホセがこちらにやって来る。心做しか、目が輝いてる気がする。
「ホセ、新しい
ホセが嬉しそうに頷き、馬の様子を見に行った。このまま馬車はホセに任せよう。
「桜様、変身ブフッ、そのままっ・・・ですよ!ククッ。あっはははははは!!!」
もう堪えきれないとばかりに笑い出したフェデリコの声が、温泉街中に響き渡る。
「ねぇ、フェデリコ。今回あなたは何をしにエールランド帝国まで行ったのかな?笑いにかな?」
変身を解きフェデリコに抗議の視線を向けると、丁度良いタイミングで疲れた顔のカリオを連れたクレマンが現れた。
「おかえりなさいませ、桜様。」
「桜様、おかえりなさいませ!フェデリコ様、待ってましたよ!!!」
カリオは半泣きでフェデリコを逃がさない様に縋り付いている。
「ただいま!2人共丁度良かった!フェデリコは今日から温泉は解禁。
でも1ヶ月間外出禁止!ドリンクバーも引き続き禁止にするから、そのつもりでよろしくね!」
疲れが消し飛んだかの様に、元気になったカリオ。対照的に真っ青になるフェデリコ。
「桜様!ありがとうございます!」
「そんな・・・あんまりです。」
いやいや、あんまりだったのはフェデリコだからね?ずっと笑ってるだけだったからね?
泣いているフェデリコを笑顔で引き摺って行くカリオ。ここに来たばかりのカリオならまず取らない行動だ。彼も強くなったね!
「クレマンは急ぎで服や下着、あと靴を集めてくれないかな。足りなくなった分は、後で買って来るから。」
「かしこまりました。」
そう言うと優雅に一礼してから、素早く立ち去った。
「さて!待たせてしまってごめんね。私は桜。この温泉街の責任者です。」
「あんたは、俺らを買ったお嬢様?」
恐る恐る聞いてきたのは、奴隷商で話した強面のおじ様。名前はコルト。鑑定によると、ハルバード共和国の元騎士団長らしい。
聞いた事のない国名だな。後でフェデリコに聞いてみよう。
「そうだよ。変身スキルで変身してたの。こっちが本当の姿。幻滅した?」
「いや、むしろ納得した。あんな若い娘が、俺の威圧に耐えられるはずが無い。」
何故か納得された。それは私が図太そうって事かな?ん?ん?
いまいち納得いかないけど、今は先にしたい事がある。
収納から回湯と治湯と傷湯を大量に出し、カイと一緒に配って回る。
「これを飲んでみて。怪我や病気が治るから。不安なら私が毒味をするよ。」
みんな不安そうな顔で、得体の知れない液体を飲めずに眺めている。
そんな中、コルトが濃い青色をした傷湯を一気に飲む。
「甘いな。・・・えっ?」
飲み干した瞬間、腕が逆再生の様に生え、あっという間に元通りであろう腕がそこにあった。
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉ!」」」」」
みんな驚き、興奮し、叫んでいる。そして次々に自分に配られた液体を飲み干していく。
傷湯を飲んだ人達は、負っていた傷も、失っていた足や腕もみるみる治り、元の姿へと戻っていく。
そして治湯を飲んだ人達は、病が消え去り健康な体を取り戻す事が出来た。
「うぅぅ・・・。」
「生きられるぅぅ。」
「ぅあぁぁ・・・。」
あまりの出来事に治った皆が泣きだし、嗚咽が漏れ聞こえてくる。
皆を鑑定し、病気も怪我も全て治った事が確認出来たので、ホッと息を吐く。
でも私には1つ誤算があった。回湯を飲んでも奴隷紋は消えなかった。奴隷紋は状態異常では無かったという事だ。
これじゃあ地下にいる子達を助け出せない。何か手を考えないと。
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