【KAC2022】今日は焼き鳥三昧でした!

東苑

特にねぎまには気をつけようと思いました




 とある女子高校の教室にて。

 お昼休み。


「お!? このおかずは……!?」


 お弁当箱を開けると珍しいものが目についた。


「じゃじゃーん! 今日のお弁当は焼き鳥です!」


「わ~美味しそ~!」


 と、言ってくれたのはクラスメイトのあやちゃん。

 高校からの友達でまだ1ヶ月くらいの付き合いだけどよく一緒に行動してる。

 アニメや漫画が大好きでその手の話になると鼻息が荒くなるかわいいだ。

 最近あの大人気漫画ジョジ●を貸してくれた。


「串についてるのと、ご飯に乗っけてある2パターン!」


らんさんがつくったの?」


 と、聞いてきたのはクラスメイトで幼馴染みの育美いくみだ。

 中学の部活を引退してから伸ばし始めたロングの黒髪に今日も惚れ惚れしてしまう。容姿端麗、頭脳明晰、スポーツ万能でクラスの人気者だ。


らんさん? うららちゃんのお母さんですか?」


「お姉ちゃん! 今、大学生なんだ! お母さんと交代でお弁当つくってくれるの!」


「お姉さんがお弁当を……わ、私のお姉ちゃんはお弁当はつくらないけど“萌え”を供給してくれるよ!」


「あ、あや、別に優劣があるわけじゃないからね。あと文のお姉ちゃん、いいお姉ちゃんだね」


「早く食べよう、早く! 頂きま~す! ど、どれから食べよう!?」


「逃げたりしないからちょっと落ち着きなさい」


「じゃあまずはこの串から! お肉は白色、上にチーズと明太子っぽいのが乗ってる~」


「なんか食レポが始まった……」


「チーズ明太! 絶対美味しいやつじゃないですか! お肉、どこの部位ですか?」


 育美がちょっと吹き出しそうになり、口を手で覆う。「部位」って単語が面白かったらしい。


「ささみかな? はい、文ちゃんもどうぞ~」


「え、いいんですか!?」


「うん、このささみもたくさんの人に食べられたほうが嬉しいよ」


「な、なんかその言い方は怖いよ、うらら!」


「では頂きます! ……うっ!」


 突然に文ちゃんがガクンと机に突っ伏した。


「文ちゃん大丈夫!?」「文!?」


「ぶ、無事です……あまりの美味しさに座位姿勢をキープできなくなりました。これが料理・グルメ漫画だったら服が千切れ飛ぶところでしたよ。あ、麗ちゃん、お礼に唐揚げどうぞ~」


「ありがと~! もぐもぐ……ん、唐揚げもうまい!」


「え、ちょっと待って、なんで食べると服が千切れるの?」


「え、わからない、育美? それはね、心にガツンと来たからだよ!」


「どうしよう、ますますわからなくなった……」


「考え過ぎたらダメですよ、育美ちゃん」


「え~!?」


「ほらほら、育美も明太チーズささみ食べな」


「ありがと、じゃあ好きなのとっていいよ」


 育美がすっとお弁当箱を差し出す。

 おお……野菜がたくさん入っててすごくヘルシーそう。わたしのお肉盛りだくさんとは正反対。

 かぼちゃ煮とトレードする。


「これはささみでしょ~、で、こっちはもも肉、ねぎま……うぇ~、この黒いの絶対レバー!」


うららちゃん、レバー苦手なんですか?」


「うん、なんか味が苦手なんだよね。お姉ちゃん、お弁当つくるとき必ず一つはわたしが苦手なもの入れてくるんだ~」


「好き嫌いなくしてほしいからじゃない? うらら、キノコとかワカメとかも苦手でしょ。食べたほうがいいよ」


「食感とか鼻を抜けてくるニオイとかが苦手なんだよぉ。特にキノコとか見た目が食べ物とは思えないくらいおぞましいし、その点焼き鳥はこの見た目から美味しさが伝わってくるよね! …………ん!?」


 おいしくっておいしくってどんどん食べてたそのとき。

 焼き鳥から有り得ない食感がした。

 噛んだ瞬間ぐちゅって汁みたいなのが出て、プリっとした食感、鼻を抜けてくる独特の風味……。

 噛むだけで鳥肌が立つ、この食べ物の正体は……!


「ねぎまだと思ったらキノコ混じってたぁ」


 育美が口直しにと魔法瓶に入ったお茶を入れてくれる。

 沁みるなぁ、優しさが。


「食べる前に気づかなかったの? いつもすぐ見つけてよけてるのに」


「なんかカサのところ切ってたみたいで。それに肉、ネギ、肉、キノコって並び順だったし……」


「そ、それはなにか意図を感じますね」


「うん、蘭さん絶対楽しんでる」


「はめられたぁあああ~! わたしの大好きな焼き鳥にトラップ仕掛けるのは反則行為だよ~!」


「だからキノコ混ぜてきたのかもね。これならうらら食べてくれるって」


「焼き鳥食べるのトラウマになりそう……」


「そ、そこまで!?」


 文ちゃんの太ももにもたれかかり、しくしく泣いたふりをする。

 文ちゃんは「よしよし」とわたしの頭を撫でながらこう続けた。


「私も小さい頃、お祭りで食べた焼き鳥がちゃんと焼けてなくて「おぇ~」ってなったことあります。それでしばらく焼き鳥食べられませんでした」


「え、そうだったの!? ごめん、さっきのささみ大丈夫だった? キノコ仕掛けられてなかった?」


「あ、大丈夫です。キノコ食べられるタイプの高校生なので」


「なにそのタイプの高校生……」


「今はお父さんがスーパーで買ってきたり居酒屋でテイクアウトしてきたの食べますよ」


「ああ、私もたまにパパが持って帰ってくるの食べる。美味しいよね」


「そうだ、今日帰りに焼き鳥食べようよ! 最近駅前にお店できたじゃん! この嫌な思い出を一刻も早くぬぐいさりたい!」


「それ、ただ焼き鳥食べたいだけじゃ……」


「いいですね! あの焼き鳥専門店ですよね」


「そうそう! ねえねえ、育美もいいでしょ~」


「育美ちゃん、3人で行きましょ~?」


 文ちゃんと二人で育美の太ももにもたれかかる。

 このスポーツで鍛えられたぷりっとした感じ。

 普通の女子高生のものじゃない。


「やめい! 晩御飯の前なんだからちょっとだけにしなさいよ? ……ぼんじりあるかな」


 その日の放課後はみんなで焼き鳥を買い食いするのであった。



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