第26話 体力はあるほうだよ!


衣装部屋から出た私をルークが顰めっ面で見てきた。

ルークが用意した服を選ばなかったからだろう。


私は少々呆れ顔で返す。


「さっき、遮られちゃったけど。顔を隠さないと面倒だからこれにしてるんだよ。わかった?ルーク。」


顰めっ面のルークは眉を上げて私に手を翳す。


「要は他人から顔が判らなければ良いわけだな?

ならこれならどうかな?《認識阻害》。」

「うっぇ!?」


チカッとルークの手が光った。一瞬眩しくて目を閉じてしまった。



目を開けると顰めっ面は消え、にっこりと笑うルークが見えた。


「さ、認識阻害の魔法をかけたから、着替えておいで。」

「え!?」


ぐいぐいと今度は私が背中を押され衣装部屋に入れられてしまった。


(最強魔導師は伊達じゃないな…。認識阻害魔法なんてかけてもらったらいくらするんだろ…。いや、そもそも人に掛ける事自体あまりしない魔法かな…。)


そんな事を思いながらも再び衣装部屋に入っている私は今度こそルークが揃えた服を選んだ。




ルークが揃えた服は可愛いものや、スカートが多かったが、私が動きやすさを重視に選んだ。


黒のハイネックノースリーブにぴっちりとした同色のアームカバー。深緑のショートパンツに太腿まである黒いソックス。

ローブは暗緑色に白いリボンが付いているものにした。

鞄はまだいつものでいいだろう。中身の移動も大変だし。



衣装部屋から出た私をルークはまじまじと見つめ納得したようだ。少し照れた様な顔で笑顔になっていた。



◇◇◇



「それでルーク、どこにいくの?また転移魔法使うの?」

「いや、行くのは王都のギルドだから歩いていける。ここの屋敷は王都内にあるものだし。歩くのは大丈夫か?」


ルークの言葉に二重の意味で驚く。


これでも一応冒険者としてやってきている身だ。

1日歩き倒しもあったくらいには平気で耐えるし、私は回復も使える。

舐めてもらっちゃ困る。問題なのはここの場所だ。


「歩くのは平気だよ。私これでも冒険者ですからね!

いや、それよりもここ王都だったの?」

「ああ、言ってなかったか。この屋敷は王都にあるものなんだ。他にも拠点があるからまた今日は違うところに泊まるがと思うが、今日ギルドへ行くと思っていたからここにしたんだ。言うのが遅れてすまない。」


ルークが浮かない顔をしたため私は首を振り微笑む。


「ううん、大丈夫だよ。」


昨日の夢は王都に居たから見たものなのか、ルークの側にいたから見たものなのかわからないが、少しでも思い出しているのならよしとしよう。



玄関ホールに行くと、大きな蛇は居なくなっていた。私とルークに気づいた甲冑達は昨日と違い、動かない事を辞めた様だ。

私達に向けパチパチ…、いやガチャガチャと手を叩いている。


「どうしたんだろ?とりあえず行ってくるね、甲冑さん達。」


柔かに手を振り前を通ると、どうやって慣らしているのか分からない口笛に身振り手振りで喜びを表現しているような動きをしていた。


玄関扉を閉めると屋敷の中からは聞き慣れない高音のキィキィとした音が響いていた。


「かなり興奮しているな。ロティに喜んでる。」

「そうなの?」


「俺が見た中では1番テンションが高いな。」



そう言うルークも心なしか嬉しそうに微笑んでいた。


屋敷を出る時に庭をチラ見したら薬草になる花や草も植えられていた。かなり珍しいものまである。

ここにあるもので最上級ポーションまで作れるのではないかと思うほどだ。

今度ゆっくり探索しよう。


ルークの屋敷はメイン通りの道から少し離れているが、屋敷は王宮の近くにあった。

今の私は王都に来た事がなかったが、前世は王都にいたから変な感じがする。


案外100年程度ではあまり大きく道は変わっておらず、多少増減している店を尻目にギルドまでの道を歩いた。

勿論ルークに手を繋がれてだ。

だがなんだかちょっと慣れてきた感じがする。




一緒に歩いていてわかった事だが、すれ違う人の殆どがルークを見る。

驚き、歓喜、興奮、中には熱視線。


英雄が街を歩いているのは珍しい事だろう。

話しかけたそうにしている人もいたが、ルークは私と道しか見えていない様だ。

僅かに複雑な心で歩みを早めた。



◇◇◇



「オーレオールはいるか。」


ギルドの特別カウンターの受付の兎の亜人に向かってルークは言った。

兎の亜人は私をじっと見る。黒髪黒耳の兎の亜人は真面目な表情で尋ねてきた。


「失礼ですが、この方は…。」

「ロティ、この兎と今から会う奴は認識阻害を解いていい。相手に自分を覚えてもらいたいと思えば解ける。やってみてくれ。」


「あ、うん。わかった。


初めまして。ロティ・キャンベルと申します。

2年ほど前からギルドには薬師と回復役で登録してありますので調べれば経歴も全て出てくると思います。」


内心ドキドキだったが、兎の亜人はにっこりと笑い頭を下げた。


「ご紹介と認識阻害魔法の解除をありがとうございます。私はここの受付を担当しております、コアトと申します。

ロティ・キャンベル様の事はギルドマスターよりお話を伺っております。経歴も暗記していますので大丈夫です。只今、オーレオールをお呼び致します。」


そう言うとコアトは音のならない呼び鈴みたいな物を振った。


すぐに後ろの扉からハーフアップの白髪で真紅の瞳をした綺麗な妖精が出て私を見て嬉しそうに駆け寄ってきた。


「あらァ!早いわァ!昨日の今日だなんて嬉しいわァ!おかえりィ、ルーク、ロティ。特にロティ、会いたかったわァ。

こっちに着て頂戴ィ。お話しましょォ。」


語尾が特徴的だが、まるで私を前から知っている口調で、友を家にでも呼ぶ様に扉の奥の更に奥にある部屋に誘う。



私はこの人と会った事はないと思う。


不思議に思いながらも招かれた部屋のソファにルークと共に座る。


その人も私達の向かい側のソファに座り、にこにこと美しい笑顔で話し始めた。


「ロティは私に会うのは初めてねェ。

私の名前はオーレオール・ルオマ。

このギルドのサブギルドマスターをしているわァ。


貴女生まれ変わっているのにィ、まるでそのままの姿ねェ。ルークから聞いているとはいえェ、驚くわァ。


でもよく見ると少し若いわねェ。前に見た時はもう少し大人びていたと思ったわァ。

ルークから話をたまに聞くのとォ、前にもあってるからか少し馴れ馴れしくなってしまうわねェ。

ごめんなさいねェ。」


「前にも…と言う事は私が前世にお会いした方ですか…?申し訳ないのですが、私前世の記憶が所々しかなくて…。」


妖精は長生きだ。

この人も前世の私に会うくらいに生きていても不思議ではない。オーレオールはくすりと笑って言う。


「あらァ。前世の記憶なんて普通は覚えていないものよォ。覚えている方が異常よォ?


250年以上生きてるけどォ、前世の記憶を覚えている人もォ、人族でこんなに生きているルークもォ、ロティみたいな前世の姿のまま生まれ変わった人も見た事ないわァ。


ルークは呪いで老いることも死ぬこともないのはわかるけどォ、ロティはどうなっているのかしらねェ。

わかるものなら詳しく知りたいわァ。


ああァ、そうそうゥ。前にロティに会ったのは残念ながら亡くなった後なのよォ。


ロティがナイフで心臓を刺されてェ、抜けないと困っていたルークがギルドに居たから私から声を掛けて抜いてあげたのよォ。」

「そうだったんですか!!それはお世話になりましたっ、ありがとうございました。」


「いいのよォ、あんな物作る方がおかしいのよォ。妖精では変わり者で有名だったからすぐにわかったわァ。」


オーレオールの柔かな笑顔はスッと消え、深刻な表情になる。


「お馬鹿のグニーの兄もまた愚鈍だわ。

あの兄妹は昔から他の妖精よりも貪欲に美しいものを求めるが故、愚かなのよ。」


特徴的な語尾が消えると、恐ろしいまでに言葉が冷たく感じた。






❇︎ルークがロティにかけた認識阻害魔法は、

対象者が望む人にのみ自分を認識してもらえる強い魔法。

初対面の人や会いたくない人があっても対象者を認識出来ない。(主に顔を記憶できない。)

お値段プライスレス。

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