第25話 我慢してるんだよ、一応、これでも。


ルークは食事の用意までしていてくれたらしく、リビングに行くとテーブルにはもう準備がされてあった。


食べてから話そうと私を席に着かせてくれた。


食べている時に魔狼から助けて貰った事とポーションのお礼を言ったのだが、ルークは少し困ったようだった。

本人曰く当たり前なのだから気にしないでと言われてしまった。



◇◇◇



やはり食べ過ぎた。

次からはもっと控えなければ。

これが毎日となれば私はあっという間に冒険者として動けなくなる。というよりご馳走されてばっかりで気も引ける。私に掛かっているお金を払いたいところだが、言ったら怒られそうな気もする。



一息付いて紅茶をゆっくりと飲むとルークも同じように紅茶を飲みながら話し始めた。


「それで、どんな夢を見たのだろう?」

「えっと、最後の記憶かな、前世の。ベルナレイル王都を出てラルラロの町に行こうとした時に、グニーが…。」


「よりによってそこなのか…。」


ルークは沈痛な面持ちになってしまった。

私が刺されて死んだ事なんて思い出したくはないだろう。

だが、私は疑問があった。


「あのね、ルーク。私あの時ナイフ抜こうとしたじゃない?なんで触れなかったんだろう?わかるかな?」

「ああ、それについてはわかる。

そのナイフは妖精エルフが作ったものだ。妖精は本質的に鍛冶師になりたがらないのだが、物好きがいてな。そいつの作品で妖精にしか触れる事が出来ないように作られている。


…だからあの時…すぐに抜く事が出来なかった。痛い思いをしただろう…すまない…。」


ルークは頭を下げた。慌てて止めに入る。


「いやいや、頭を上げて。あれはルークが悪いんじゃなく刺してきたグニーでしょ?何もルークは悪くないよ。」

「だが、元はと言えば俺があの女を拒否しなかったからで…。」


「だってルークは記憶なかったんでしょ…?」

「それはそうだが…しかし…。」


「もー!!記憶がなくなったのはどうこう言ってもしょうがないって言ってたと思うんだけどな!」


私が癇癪気味に言うとどちらも無言になる。

そしてルークがその沈黙を破り呆れたように笑って、ゆっくり話す。


「俺は…俺自身が思っている以上に記憶をなくしたことを引き摺っているんだ。

だがロティは俺の後悔を聞く度に、仕方のない事だと慰めてくれた。だから俺は仕方ない事だと刷り込んでいる、つもりなんだ。


俺の記憶が無くなったことに対しての後悔はきっと一緒消えないかもしれないが、それくらいにロティを忘れたくなかったんだ。

今はロティが俺の事を記憶にない部分がある。

思い出した時に俺と同じ想いなら、俺の気持ちも少しわかってくれると嬉しくはある。


俺はロティが大好きで、愛おしくて、愛してる。

この先は離してもあげられないけど、ごめんな?」


優しい表情のルーク。

ルークは記憶をなくしたことをどれほど悔やんだのだろう。

何度も何度も記憶を無くさなければよかったと思ったんだろう。

そこまで大切な記憶だったのだろうか。前前世は。


どんな風に生きたんだっけ?

どんな風に終わったんだっけ?

今の私には思い出せない。

私はルークを覚えていなかったことを後悔するようになるのだろうか?

そんな事今思ってもわかるはずもない。



きっと私が後悔しないようにするためにはルークと一緒に居て共に過ごした方がいいのだろう。

私の勘がそう言っている気がした。




「ルーク。

私はルークと一緒にいるつもりだから大丈夫だよ。

そりゃあ記憶が戻るまではルークの事拒否しちゃう時もあるかもしれないけど。勝手に離れたりしないから、離れた時は攫われたのかも?とか思っていいよ。」


私は得意げに言い放った。これでルークも少しは安心するかな?なんて思いながら。


ルークはいい終わった私に無言で手招きした。


向かい合わせの席に座っていたため、椅子から立ち上がりルークの所へ行く。ルークは手を差し出していた為その上に手をそっと乗せる。


優しく微笑んだルークはあろうことか私の手をまたも引いた。バランスを崩した私はルークの上に座るように倒れてしまった。


「あああぶな」

「宣言自体は嬉しいけど、拒否は嫌だ。その内なれるから我慢しよう?攫われないようにしっかり繋いでおかないとな?」


「え!?私が我慢なの!?ルークはしないの!?」

「俺は100年以上待ったから。我慢しない。というよりこれでも我慢はしてるんだ。これ以上我慢させられたら襲ってしまうかもしれない?それは嫌だろう?」


私は言葉に詰まる。嫌、と些か表現が違う。


昨日の私とはまるで違う、ルークを好いている感情がある。私はルークを想っていた記憶の欠片を持っているのだ。完全に記憶が戻ったらがいいと思うのは前の私がきっと嫉妬しているのだろう。


自分自身に嫉妬は意味がわからないがきっとそういう感じ。


「あの、ルーク私の勘で申し訳ないんだけど。」

「うん?」


「嫌なのはきっと記憶が揃っていない今だからで。記憶が戻ったら私は、んぐっ。」

「ちょっと待って。頼むからこの格好でこれ以上言わないでくれ。本当に襲ったらまずい…。」


私の口を手で塞ぐルークは顔が赤い。


だがこの格好にさせたのはルークだ。そこに文句を付けられたくはない。私が睨むとルークは私を抱きしめた。



「…記憶が戻るまでもてばいいなぁ…。」


と呟いたのは聞かなかった事にしよう。



◇◇◇



抱きしめられているのをなんとか離してもらい、今日は私にかけたれた呪いの鑑定をしに行くと言っていたので用意しよう。

と言っても顔を洗い、服を着替えて荷物持つだけなのですぐに済むのだが、肝心の荷物も服がどこにあるかわからない。どこにあるのだろう。



部屋を見回すが私のものは見当たらない。

ルークがくすりと笑って声を掛けて来た。


「ロティ、ローブも服も嫌じゃなければ用意してあるものがあるからそれを使わないか?後ロティどこかに宿取っているならそれも引き払おうか。荷物も持ってこよう。」


「え!?服!?というかルーク…昨日からお世話になりっぱなしだからお返しなりお礼なり少なからずはしたいと思うんだけど…。いや、本当返せるもの少ないけど…。」


ルークは首を傾げ、顔を軽く顰める。


「ロティ?勘違いされては困る。

ここの屋敷は譲り受けたと言ったが今は全て俺の所有物にあたる。強いて言えばロティのものでもあるんだ。

中はどこを使っても散策してもいい。

見られて困るものも使われて困るものもない。さあ、服がある部屋まで案内しよう。」



ルークは私の手を取り繋ぐとそそくさと2階の寝室の隣の部屋まで案内してくれた。


扉を開け中を見ると、沢山の服があった。

どこで着るのかわからなそうなドレスや普段着る服に近いもの。ありがたい事に私が使っていた私の鞄とローブもある。



「ローブは直したけど、出来るなら新しいほうが良くないか?」

「えー…だってこのローブ、フードが深くて被るとき顔が見えにくくなっていい感じだと思うんだけどなぁ。」


中々ここまで深く被れるローブもない、と私はこのローブを深く絶賛し褒め讃えたい。

そんな私を首を傾げて見ているルークが質問してきた。


「何故そこまで顔を隠したい?」

「だって…。

うーん。…なんか自分で言うのも嫌なんだけど。仕方ないか…。

色々言い寄ってくる冒険者も中にはいてね…。出来るだけパーティメンバーだけに顔を見せるようにしていたんだけど、それでもパーティで揉めちゃったりして…って、うわ!怖いよ!?ルーク!?」


ルークの顔がとんでもなく怖い。

と思ったらその怖い顔でにっこりと笑顔を作る。

いや、笑っても怖い。


「そういえば、そうだった。

ロティ、パーティメンバーに色々されたと聞いたんだ。

どんな奴だった?名前は覚えてるか?

職業でもいい、特徴とかなんでもいい。

暇な時にでも俺が片っ端から制裁をして行こう。

冒険が出来なくなるほどでも羞恥を晒すものでもいいな。」


「いや…ギルドに報告してあるから…。大丈夫だよ…。そこまでしなくともいいよ…?」

「遠慮しなくていいんだ。ロティ。不快な思いをしただろう?」


「した事はしたけど…。

ゲオーグさんから皆厳重注意やらなにかしらの罰は受けてるからっ!ルーク…落ち着こう、今日は呪いの鑑定をしに連れて行ってくれるんでしょ?服着替えるから一回出てね。」

「いや、だが、しかし」


「はいはい、着替えるからね〜!」


そう言うと私はルークの背中を部屋の外まで押した。

渋りながらも意外とすんなり出て行ってくれたので助かる。


凄く私を想ってくれているのはひしひしと感じるが、ルークが空回りしないようにするには私も早く思い出さないといけないのだ。


「とりあえず、着替えよう。」


私は1人呟くと自分がいつも着ていた服を再度身につけた。



❇︎妖精にしか触れない武器を使うときは使いたい対象の血(魔物なら魔物の血、人間なら人族、亜人なら亜人族の血)と妖精の血を混ぜて刃に塗れば使える。

塗ってある部分のみ対象を傷つけられる。

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