第9話 救世主作戦-準備-
『
その内容について、アリスが目を覚ますのを待ってから、ミナリアは語った。
「まずね、アリスちゃんの村が襲われたよーに、野盗ってのはどっかにいると思うわけ。んで、適当な村を襲うと思うんだよね」
「だろうな」
ミナリアの言葉を、ユースウェインは肯定する。
一度、そのように他者から奪うことを覚えた輩は、それを繰り返す。作るよりも奪う方が何倍も楽であり、虐げられていたがゆえに他者から奪い取るのだ。
そしてアリスの村がそうであるように、少なからず襲われる村はあるだろう。
「んで、野盗に襲われた場合、ほぼ間違いなく奪われるのね。そりゃそうだよね。向こうは人殺しをしてて、農奴は身を守る手段もないから。まぁ奇跡でも起きない限り、絶対に皆殺しにされちゃうわけ。大人しく差し出すなら別かもしんないけどね」
「……です。わたしの村も、そうでした」
「嫌なこと思い出させちゃって、ごめんね。でも……そうなると、縋る相手は誰でも良くなるわけ」
ミナリアは腕を組んで、そう説明する。
「奇跡でも起きない限り、絶対に皆殺しにされちゃう。だったら、ウチらがその奇跡になればいいの」
「……つまり、村を救う、ということか?」
「そういうこと。だから『
なるほど、とユースウェインは頷く。
見た目で怖がられないように、行動で示す、ということか。
「で、ウチらの主人はアリスちゃんなわけ。だから、ウチらが最初に圧倒的な力を見せつけて、その主人としてアリスちゃんを紹介する。んで、ウチらがどれだけ助けたところで、怖いもんは怖いわけね。だからまずは、恐怖で村を縛る」
「怖がられないようにする、ってわけじゃないの?」
「ぼくにもそう聞こえたよ。怖がられないように助けて、信用を得るんじゃなかったのかい?」
「あのねー……ウチらが怖がられないわけがないでしょーが。この人外連中」
「お前もそうだぞ」
「揚げ足取らない。まぁ……何て言えばいーのかな。怖いけど助けてくれる存在、みたいな風に認識されるのがベスト。んで、ウチらが従っている限りは、アリスちゃんも子供だからって舐められないのね。んで、その村をアリスちゃんの支配する領地にするわけ」
ミナリアの言葉は、納得できるものだった。
確かに、ただ出てゆくのではなく、相手の窮地を救えば、印象は変わるだろう。良い方に。
だが、領地というのはそう簡単にできるのだろうか。
「……あの、わたしの領地、ですか?」
おずおずと、そうアリスがミナリアへと尋ねる。
その問いに、ミナリアは大きく首肯した。
「そ。アリスちゃんの領地」
「で、でも、わたしも農奴です」
「そんなの関係ないの。民にとって、上にいる人間なんて誰でもいいから。アリスちゃんが村を支配するってことにして、代わりに戦力である人外が村を守る。そして税も最小限にする。その上で、税務官や領主の使いに対してはウチらが相手をする」
三つの指を立てて、にんまり、とミナリアは笑う。
「この条件で、承諾しない村はないよ。ウチが保証する」
ふむ、とユースウェインは腕を組む。
確かにミナリアがそう言うならば、間違いないのだろう。そういった知恵については、ミナリアに全てを任せているのだ。
ならば、作戦に乗るのが一番だろう。
「では、どうするのだ」
「まずはアリスちゃんの村の、最寄りのまだ無事な村に行こう。んで、監視する。何日かかるかは分かんないけど、いずれ野盗は来るはずだから、それまで待つのね」
「こっちから言い出さないの? 守ってあげる、って」
レティシアの問いに、ミナリアは首を振る。
「最初に言ったでしょ? 少なからず人は死ぬって。人間ね、窮地にあればあるほど、何にでも頼るわけ。んで、絶望しないと、ウチらみたいな人外は受け入れられない。だから……最初は見殺しにする」
「なるほどな……」
あまり気乗りがしない、と言っていたのは、このためか。
救える相手を見殺しにして、信用を得る。
だが、非情であるが間違っていない、というのが事実だ。
「んで、野盗がそれこそ村を皆殺しにしよーとしたときに、颯爽と現れて助けるわけ。窮地であれば窮地であるほどいーけど、かといって人が死にすぎると、支配してからのうま味がないんだよね」
「タイミングを見計らう、ということか」
「そゆこと。そして村の危機を救った人外と、それを束ねる女王であるアリスちゃん、そしてその隣にいる神算鬼謀にして容姿端麗の完璧美人ミナリアちゃんが現れる」
「鬼以外に何も合っていないな」
「うっさいユース。そしてアリスちゃんが宣言する。『村人よ、わたしの庇護に入れ。この村を弾圧する領主がいるならば、我が眷属が守ってみせよう。この村を襲う野盗がいるならば、我が眷属が殲滅してみせよう。このわたしが、約束しよう、貴様らには安全な住処、そして満足する食事を与えると』って感じかな。はいアリスちゃん、やってみて」
「え、ええええ」
「ここはユースとアディとレティが暴れて、野盗が殲滅した村です。村人たちが、自分たち救ってくれた人外に戸惑っています。そこでアリスちゃんは前に出ました。はいどうぞ」
「え、ええと……えぇー……」
突然の無茶振りに、アリスがそう戸惑う。
しかしミナリアは何も言わず、ただ目だけでじっとアリスの動きを待った。
「え……えと……。む、むらびとよ」
「……」
「わ、わたしの、えと、何だっけ。領主から、守ります。野盗から、守ります。あ、あんぜんなすみか、まんぞくするごはんを、与えます……?」
「……うん。代わりにウチが言うね。アリスちゃんは黙って立ってくれてたらいーよ」
「う、うぅ……」
あまりにも棒読みで、あまりにも威厳のない言葉に、ミナリアが頭を抱えながらそう言う。
元より農奴であるアリスに、そのような支配者としての振る舞いは難しいだろう。
だが、それだけ心優しい少女なのだ、とユースウェインは頷いた。
「では、ミナリア。どう動く」
「まずは近くの村に行く。んで、村が見える位置で観察しながら、野盗が来るのを待つ。何日かかるか分からないけど、ユースとアディとレティは七十二時間が来る前に、交代で帰ること。ウチは七十二時間が来たら一旦戻るから、その間の指揮はレティに任す」
「了解よ、ミナリア」
「うっし、それじゃ――」
ミナリアが大きく拳を突き出して。
それに、ユースウェイン、アーデルハイド、レティシアが拳を合わす。
そして最後に、おずおずとアリスが拳を合わせて。
「
「おうっっっっっっ!!!」
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