15
「雨、降ってるね」
居間で、ソファに腰を落ち着けながら、愛読書に目を通していた私の隣で、彼女が呟いた。
外に目を遣ると、確かに、瑞々しい糸の数々が、しとしとと地面に向かって降り注いでいる。
「ああ、そうだね」
ふと、海と緑雨の混ざった香りが、私の鼻腔を通り過ぎ、あの日の光景が、私の脳裏に蘇る。
「…線香花火、しようか」
「…え?」
彼女が、呆気に取られたような声を漏らす。
私自身も、思わず出てしまった自分の言葉に、少なからず動揺していたが、そんな事はおくびにも出さず、言葉を続ける。
「しばらく、行ってなかっただろう。あの、紫陽花が良く見える、海辺の公園に」
「そうだけど、でも…」
思い詰めた様に、しばらく逡巡していた彼女は、首を振りながら、
「…ううん、そうね。久しぶりに、行きましょうか」
と、あの、彼女には似つかわしくない、凛とした、良く通る声で、私に答えた。
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