第二服 同乳連枝(伍)
一頻り笑い合ったあと、
「
「ほう。
「はい。そのつもりで準備も進めておりましたが、
にたり。
調略には贈物が必要であり、堺と東讃の商人らには繋がっていた。そして、堺の塩は芸予諸島を通って来ており、
「そうしてくれるかの?」
之秀は間髪を入れず答えた。
その眼差しは真剣そのもの。それもそのはず、三好氏は細川讃州家内での発言力を落としている。先々代・三好筑前守之長か嫡子・修理大夫長秀が健在ならば、阿波衆も対立するようなことはしなかっただろうが、現在の讃州家に於いて三好への風当たりは厳しかった。味方は一族と寄騎の篠原氏らだけである。ほとんどの阿波衆は之長の強引な遣り口に反対で、それが之長敗死の原因でもあった。本来なら甥の長基を支えるべき次兄・
だからこそ、長基を推戴する之秀は既存の遣り方に拘らなかった。商人と強く結びつこうというのも、その現れである。戦には金が要るのだから、商人を蔑むことなくともに栄えればよいのだ。そして、今は当主を取り巻く側仕えの層を厚くすることである。力ある若者を集めねば、三好家の飛躍の時に人が居らぬとなりかねない。さらには、長基を守れねば意味がなかった。
長基とて若いが、三好は今、赤子の当主を戴く訳にはいかない。故に長秀の遺児は之秀が引き取り、養育している。ゆくゆくは長基に許しを得て一家を立てさせてやろうと思っていた。子のない之秀の跡を継がせても良いやも知れぬ。長秀が之長に従って上洛した
「勿論でございますとも。
「恩に着る」
今度は之秀が頭を下げた。
之長もそうだったが、三好の者は商人を見下さず、対等に付き合ってくれる。これは
「
「儂の頭で済むものなら、いくらでも下げようほどに、な」
長基の頭は下げさせぬつもりなのであろう。
「お顔をお上げくだされ。千屋は武家に頭を下げさせるなどと評判になっては困りまする故」
「これは失敬、そうなっては
再び二人は笑い合い、
「これは助かる。
生粋の武人でありながら、連歌や所にも通じる之秀であったが、抹茶は苦手であった。その割には甘い物に目がなく、唐物菓子である「
当然ではあるが、今も高坏に盛られて之秀の前に出されていた。
「では、酒が入る前に又甥の顔でも見てくるかの」
「今時分は孫と一緒に寝ているかも知れませぬが」
寝顔だけでも、と之秀が立ち上がると、
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