剣と魔法の異世界物語
バーチ君
ジパン大陸編
第1話 僕の名前はミライ
外は土砂降りの雨だ。雷鳴が響き渡り、稲光で一瞬明るくなる。そんな夜に、一人の冒険者が冒険者ギルドから自宅に帰ろうと橋を歩いて渡っていると、微かに赤子の泣き声が聞こえてきた。冒険者が川原を駆け下り、橋のたもとに行くと船の中から赤ん坊の泣き声が聞こえてきている。冒険者が船まで行くと籠の中に白い布に包まった赤子がいた。冒険者はその赤子を抱き上げ、妻の待つ自宅へと急いだ。
「ただいま。マリア。」
「お帰り。遅かったわね。ダンテ。その赤ん坊はどうしたの? ま、ま、まさか!」
「誤解だから! 誤解! 帰る途中で拾ったんだよ!」
「拾った?! でも、どうするのよ? 私、赤ん坊の世話なんてしたことないわよ!」
「マーサさんのところにつれていくぞ!」
「は、はい。」
ダンテとマリアは赤ん坊を抱きかかえて、マーサの家まで急いだ。マーサの家では1か月前に赤ん坊が生まれたばかりだ。マーサはダンテ達が連れてきた赤ん坊に快く母乳を与えてくれた。
「でも、どうしたんだい? ダンテ! この赤ん坊!」
ダンテはマーサと夫のゲンタに事情を説明した。
「良かった~! もしかしたら、ダンテが赤ん坊を攫って来たんじゃないかと思ったぞ!」
「ゲンタ! 見損なうな! 俺がそんなことをするわけがないだろう!」
「けどな、ダンテ! お前、子どもが出来ないことでふさぎ込んでたマリアさんのことを本気で心配してたじゃないか。それくらいのことやりかねないだろ!」
「えっ?! ダンテ~! 私のことそんなに心配してくれてたの?」
「そうさ! いつでもどこでもこいつはマリアさんのことばっかり考えているのさ。」
「ありがとう。ダンテ。」
マリアがダンテの胸に飛び込んでお互いに見つめ合っている。
「いちゃつくのは家に帰ってからにしておくれ! それで、この赤ん坊をどうするんだい?」
「どうするって言われてもなぁ~。」
「ダンテ! この子は私達で育てましょ! きっと神様が私達に授けてくれたんだわ。」
「だが、母乳もないし、それに俺達は赤ん坊なんか育てたことないじゃないか。」
「何言っているんだい。ダンテ! 母乳なら私のをあげるさね。それに、私だって母親の新米だ。マリアさん。一緒に頑張りましょうよ!」
「マーサさん。ありがとうございます。」
「水臭いことをお言いでないよ。それより、この子の名前はどうするんだい?」
「マーサさん。この子は男の子なのか、女の子なのか?」
「あんた達! そんなことも確認してないのかい! ちょっと待ってな。」
マーサは元気に母乳を飲む赤ん坊の服を脱がした。すると、肩のところに三日月形のあざがある男の子だった。
「この子は男の子だよ!」
「男の子か~。なら、この子の名前はミライだ! この子は俺とマリアの希望だからな。」
「ダンテ! いい名前だわ! 私達の子どもなのね!」
こうして、ミライはダンテとマリア夫妻の子どもとして育てられることになった。
それから7年が経った。現在、ダンテはマリアと相談して冒険者をやめ、農業と狩りの仕事に従事している。ミライは元Aランク冒険者のダンテに剣の修行を受けて、逞しく成長していた。
ある朝、僕がいつもの通り朝食後、庭で剣の素振りをしているとアリスがやってきた。アリスはマーサおばさんの娘だ。小さいころから、僕とアリスは姉弟のように育てられた。
「ミライ! また剣の練習してるの? 遊びに行くわよ!」
このカエデ村には僕やアリスに年の近い子どもはいない。大分年上か、大分年下のどちらかだ。そうなると、必然的に僕とアリスは2人だけで遊ぶことになる。
僕とアリスの遊びと言えば、川に行って魚をとったり、追いかけっこをしたり、それか木登りぐらいしかない。だが、ここ最近僕達の遊びに変化があった。それは2人が魔法検査を受けた結果、アリスには光属性の魔法特性があることが分かったからだ。僕には魔力自体がなかった。この世界では、少なからず誰もが魔法属性があり、魔力があるにもかかわらずだ。
そして、今日も僕はアリスの魔法の練習につきあい、川原近くの草原に来ている。アリスは、光魔法で鳥を打ち落とそうとしているのだ。
「何が悪いのかなぁ。狙った場所に飛ばないよ。」
「魔力のない僕に分かるはずないだろ!」
「もしかして、ミライが毎日剣の練習をしてるのって、魔力がないからなの?」
「そうさ。僕は父さんのように強い男になりたいんだ。」
「大丈夫よ。いざって時は、私がミライを守ってあげるから。」
「ダメだよ。僕は父さんのように強くなって、母さんを守るんだから。」
「えっ?! 私を守ってくれるんじゃないの?」
「母さんの次に守ってあげるよ。」
「ふん! いいわ! 私は自分で守るから!」
何故かアリスの機嫌が悪くなってしまった。川原で少し休んだ後、お昼ご飯を食べに家に帰った。僕とアリスはどこに行く時も手を繋いで歩いている。喧嘩していてもだ。
そして、何日か経った頃、お父さんと一緒に、生まれて初めての狩りに行くことになった。ワクワクして昨日の夜から寝れなかった。朝食を食べた後、いよいよ出発だ。
「ミライ! 早く来い!」
「待って! 今準備してるから。じゃあ、母さん。行ってきま~す。」
「初めての狩りなんだから、危ないことしないでね。気を付けて行ってらっしゃい。」
「は~い。」
「父さん。お待たせ!」
「ミライ。剣は持ったな!」
「うん。」
「なら行くぞ!」
ミライはダンテに連れられて、山に向かった。村に出る魔物の退治を兼ねて狩りをするつもりだ。
「父さん。この山にはどんな魔物がいるの?」
「ブラックベアのような強いものもいるが、今日はミライの初戦だからな。ホーンラビットを狙うぞ! ホーンラビットの肉は上質でうまいからな。」
「分かったよ。でも、どうやって見つけるのさ?」
「全身に魔力を張り巡らして、気配を感知しながら行くんだ。」
「なら僕には無理だな~。魔力ないもん。」
この世界の人々は大小異なるが、ほとんどの人間が魔力を持っている。だが、ミライには魔力がないのだ。最近村にある小さな教会に行って、魔力測定と属性を調べてもらったが、属性どころか魔力がなかったのだ。
「ミライ! 魔力がなくても神経を集中していれば、相手の気配はわかるようになるぞ。やってみろ。」
「うん。」
僕は神経を集中しながら、お父さんの前を歩いた。風に吹かれて木の葉がカサカサと音を立てる。その度、僕は音のする方向を見る。だが、何もいない。しばらく歩くと、草原地帯に出た。前方の岩陰近くで、何やら動くものの気配を感じた。
「父さん。あの岩陰のところに何かいるみたいだよ。」
「よく見つけたな。あれはホーンラビットだ。ホーンラビットは音と匂いに敏感だから、風下から慎重に行くんだ! 仕留めてみろ!」
「うん。」
僕はゆっくりとホーンラビットに近づいた。1m迄近づいたとき、ホーンラビットが顔を待ちあげてこちらを見た。剣でホーンラビットに切りつけたが、すんでのところでかわされた。ホーンラビットを必死に追いかけたが、穴の中に逃げ込まれてしまった。こうなったら、もう手も足も出ない。ホーンラビットの住処は、いくつも出口が用意されているのだ。
「ごめんなさい。」
「惜しかったな。ホーンラビットも殺されまいと必死なのさ。俺が一度手本を見せるから、それを真似してみるといい。」
「うん。」
その後、しばらくして再びホーンラビットがいた。今度は父さんが狩りをする。僕はその様子を真剣に見ている。父さんはホーンラビットに気づかれることなく近づいて、一撃でホーンラビットを仕留めた。
「どうだ? 何かわかったか?」
「・・・・・」
「そうか。わからなかったか。」
僕が首をかしげて考え込んでいると、父さんが教えてくれた。
「“殺気”だよ。ミライ! お前はホーンラビットを狩ることに一生懸命になって、殺気が駄々洩れだったんだ。魔物や野生動物は殺気に敏感だからな。」
「じゃあ、どうすればいいのさ?」
「心を静めてやってみろ!」
それから、何度か挑戦したが、なかなかうまくいかない。もう、へとへと状態だ。だが、夕方近くになって、やっと一匹狩ることができた。
「よくやったな。母さんも喜ぶぞ!」
その日は僕が1匹と父さんが3匹仕留めた。
「父さん。マーサおばさんのところに持って行こうよ。」
「そうだな。だが、お前、アリスが目当てじゃないのか?」
「違うよ。あんなじゃじゃ馬娘。」
「ハッハッハッ」
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