元祖?本家?異世界人の焼き鳥屋 

@mia

第1話

 僕が高校から帰る途中、突然まばゆい光に包まれたと思ったら、さっきまでとは全然違う場所にいた。

 天井の高い屋内に、神話に出てくる女神のような像が置いてある。

 パニックになった僕の後ろから声が聞こえたので振り返ると、何十人もの人がいた。

 キラキラした同じ歳くらいの男が話しかけてくるが、何を言っているか分からない。何語?

 キラキラ男に何か言い、僕に話しかけてきた男の顔を見て心配になった。自分のことより心配になった。

 目の下にクマができ、顔色も悪いし、いまにも倒れそうだったから。

 この男が手をかざし、何か言ってくるが分からない。

 分からない。

 分からない。

 分かる⁉

 なぜ言葉が分かるようになったのか分からない。

 驚きのあまり叫びそうになったのを堪える。

 大声出したせいで目の前の男が倒れたら困る。


 場所を移して、やたら豪華な応接間で説明を受ける。おいしいお茶とお菓子付きで。

 僕はある問題を解決するために、この国へ召喚されたらしい。問題は「いずれ分かる」と教えてもらえなかった。

 クマがあった男は、召喚魔法使い団の主任に抜擢され、プレッシャーで大変だったと同僚の人に聞いた。だからあんな姿に。


 数日後、王様たちに紹介された。

 王様、王妃様、側妃様5人、王子様15人、王女様6人。王様ってお金持ちなのね。

 キラキラ男は15歳の第三王子様だ。失礼な真似しないでよかった。

 見慣れた黒髪の男もいた。14歳の第四王子様。

 以下略。多すぎて一度で覚えられない。

 一番下は半年前に生まれた王女様。かわいい。癒される。

 第三王子には兄二人、姉三人いた。

 姉一人は隣国に嫁ぎ、他の四人は十六年前のはやり病で亡くなったそうだ。


 日々自分なりに観察して過ごすが、問題が何か分からない。

 そんなある日、主任が昨日までとは違う平民みたいな服装で僕のところに来た。


「これから冒険者ギルドに行くが、一緒に来るか?」


「行きます!」


 主任と同じような服に着替えて二人で出掛ける。

 ギルドまでの通り道の両脇に店が立ち並んでいる。一番多いのは食べ物屋だ。

 人が集まっている店が気になり看板を見ると「元祖・異世界人の焼き鳥屋」と書いてある。

 懐かしさのあまり走り寄るが、作っているのをを見てがっかりした。

 串に刺した照り焼きチキンだよ。テカテカだよ。

 お城で食べた料理の味は塩、コショウ、ハーブだったので、久しぶりの醤油味はとってもおいしい。おいしいよ。

 でも、「焼き鳥」を食べられると思ったので、コレジャナイ感が大きい。

 がっかりした僕を見て主任が店主に話を聞いてくれた。

 それによると、五十年ほど前に他国に召喚された異世界人が国外追放になり、この地で焼き鳥屋を開いた。

 店主のおじいさんがその味にほれ込み弟子入りし味を引き継いだらしい。

 肉は異世界人が選んだ鳥魔獣の肉を使っているので、鶏肉っぽいけど。

 味は引き継いだけれど、作り方は引き継いでないのか。


 歩き出すとすぐにまた人が集まっている店があった。

 看板には「本家・異世界人の焼き鳥屋」とある。

 期待せずに並ぶが自分の順番に思った。「期待しないでよかった」

 どうみても串焼きバーベキューだよ。何種類も野菜がとれて健康的だね☆醤油味のバーベキュー。

 がっかりする僕を横目に主任が話を聞いている。

 それによると、さっきの店主と同じらしい。

 でも肉はイノシシの魔獣の肉。もう焼き「鳥」ですらない。

 串で刺せば焼き鳥なのか。この世界のおじいさんは引き継ぐの意味を知っているのか。

 異世界人は本当に焼き鳥を作ったのか。

 がっかりした僕を見て主任の顔色が悪くなる。

 ギルドに着く前に倒れたら困るので、努めて明るい声を出す。


「僕の知っている焼き鳥とは違うけど、どっちもおいしいですね」


 そうだよ、おいしければいいよ。

 僕は焼き鳥に詳しくもないし、思い入れもない。

 父さんの酒のつまみがおいしそうで小さい頃「ひとつちょうだい」と言って、串から外した焼き鳥もらったことくらいか。

 

「もしかしたら、焼き鳥伝えた異世界人は僕と違う世界の人かもしれませんね」


 僕の話を聞いているのか、いないのか、主任の表情が無である。

 無言のまま二人で歩いていくと分かれ道となった。

 角にたっている案内図を見るとまっすぐの道は今来た道と同じお店の立ち並ぶ道で、曲がると店が少なくなり突き当りにギルドがある。


 今の主任がギルドに行っても仕事にならなそうなので、もっと店を見たいと伝えまっすぐ行く。

 三軒「焼き鳥」店があったが、知っている焼き鳥ではなかった。

 

「焼き鳥!」


 においと煙の漂う、一番奥の店へ主任を置いて思わず走り出す。


「焼き鳥ですよ、焼き鳥。うおー、つくねもある」


 追いついた主任と食べる。


「これが僕の知っている焼き鳥ですよ!」


 興奮気味の僕とは反対に主任は落ち込んでいく。

 主任が倒れた。

 声を掛けても反応しない。

 周りにいた人が寄って来て、主任を介抱してくれた。

 ほんの数分がとても長く感じた。


 城に戻った僕は自分に与えられた部屋から出ないように言われた。

 翌日も、その翌日も。

 これまでは主任と一緒にどこへでも行けた。

 主任の都合がつかないときは、別の人がついてくれた。

 僕が無理を言わなかったからか、行動に制限が付いたことはなかった。

 軟禁状態は主任が倒れたことと関係があるのか。

 一度、見たことない偉そうな人が何十人も部屋に来た。入りきれず、廊下にはみ出るほどの大人数だ。

 あの日にあったことを教えてほしいと言われたので、細かく説明した。

 僕の話を聞いて、みんな顔色が悪くなっていく。

 

 やっと、主任が来て説明してくれた。

 


 ご神託があった。


「王太子は焼き鳥で決めるように」


 意味が分かった者はいなかった。

 第三王子か第四王子のどちらかが選ばれると誰もが思っていたが決め手に欠けていたので、ありがたいご神託のはずが余計に混乱した。

 王子も王女もそれぞれ好きな焼き鳥あったが、第三王子は元祖、第四王子は本家を好んでいた。

 焼き鳥で決めるように言われても、焼き鳥を知っている人がいないので決めようがなかった。

 そこで、焼き鳥を知っていて王太子選びにふさわしい人を女神に祈り召喚した。

 

 僕、やばくない?

 元祖も本家もダメ出ししたよね。

 焼き鳥じゃなく、第三、第四王子に対してのダメ出しと受け取る人が出てもおかしくないよね。

 不敬?

 血の気が引いていくのが分かる。


「それよりも一番問題なのは……」


 僕が本物認定した焼き鳥が好きなのが三歳の王女様ということ。

 

 焼き鳥が選ぶこの国の未来はどうなる⁉

 

 



 

 

 

 


 

 


 

 

 




 

 

 


 

 

 


 


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