娘ちん、意気消沈

味噌村 幸太郎

第1話 そんなこと言ったの!?


 皆さんは、お子さんの前で、どんな会話をされますか?

 幼い子供だからといって、侮っていたら、しっぺ返しを食らうかもしれません。


 どうせ、意味が分からないだろうと、夫婦などで楽しく会話していても。

 子供は黙って聞いているものです。


 僕はとある映画が大好きです。

 その映画は、R指定がつくような暴力描写が激しいヤクザ映画です。


 晩酌しながら、よくそのシーンをスマホで見ては、ゲラゲラ笑っています。

 暴力描写こそ見せないものの、凄まじい怒号が連発される有名なシーンが大好きで。

 

『てめぇら、ガタガタうるせぇーんだよ!』

『ワレ、なんじゃい!』

『なんや、こいつ。なめやがって……なめんとか、コラァ!?』

『なめてぇねーよ、バカヤロー!』


 という、やりとりが僕は大好物で、ハマると影響されやすい性格なので、日常的にそのセリフを多用します。


 娘たちが保育園や学校で、嫌なことがあったとか、人に嫌なことを言われたりしたと、相談された時なんかは。


 僕は冗談でこう言います。


「そういう時は、先生に向かってこう言えばいいんだよ。『ワレ、なんじゃい!』ってね♪」

 長女は頭がいいので、苦い顔をします。

「そんなこと言えるわけないじゃん」

「ごめんごめん……」


 我が家では、なんてことがよくあるのですが。


 次女である娘ちんは、黙ってそれを聞いていました。


 6歳になる娘ちんは、保育園で好きな男の子がいます。

 僕に似てシャイな子なので、なかなかアプローチができません。

 ですが、話を聞いている限り、脈ありそうな仲なようで。


 ある日、その男の子に向かって、娘ちんはこう言ったそうです。


「ねぇ、ちょっと耳貸して!」

「うん。いいよ~」


 耳元でドスの聞いた声で囁く娘ちん。


「ワレ、なめんとかぁ!?」

「……」


 その後、黙り込んでしまう男の子。

 娘ちんは、どうやら、このセリフを誉め言葉とか、冗談と思っていたらしいです。


 意味が分からなかった、娘ちんは、帰宅して、僕に相談します。


「ねぇ、パパ」

「ん?」

「『ワレ』ってどういう意味?」

「あー、お前とかてめぇとか、かな」

 僕はなんでそんなことを聞いて来るのか、不思議でした。

「え……じゃあ、『なめとんか』は?」

「ん~ 相手をバカにしている……意味かな。どうして、急にそんなこと聞くの?」

「なんでもない」


 急に顔が青ざめる娘ちん。

 あとで、母親である妻に、男の子に言ってしまったことを相談したそうで。

 妻は驚き、

「そんなこと言ったの!?」

「う、うん……意味わかんなくて」

「じゃあ、謝っておいた方がいいよ」

「うん……」


 後日、妻から僕は、事の重大さを知り、とても罪悪感を感じました。


 ですが、先日バレンタインデーで想いを伝えたところ、両想いになれたようで。

 毎日、「どれぐらい好き?」「100万かい!」と言い合える仲になれました。


 僕はこの件で、反省しております……。



   了

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

娘ちん、意気消沈 味噌村 幸太郎 @misomura-koutarou

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ