プロローグ
ふと、メアリ・アルバートは
始業式の真っ最中。学園長が長ったらしい話を終えて一礼し、そのハゲかかった頭がライトを反射させたその
この世界が前世でプレイした
ゲームの内容は至ってシンプル。
貴族が通うカレリア学園に転校してきた主人公アリシアが、学園生活を送りながら
もちろん
おまけに、庶民だと思われていたアリシアが実は
ありきたりと言うなかれ。テンプレートというものは逆に言えば一定の層を確実に
そんな王道的なストーリーに加え、イラストやシステムも出来が良く、ファンディスクや続編が発売されるほどに人気だったことも今では思い出せる。
ちなみに、メアリ・アルバートはそのゲームに出てくる悪役キャラクターである。
王家に次ぐ権力を持つアルバート家の
いわゆる、悪役令嬢没落コース。主人公に共感しながらプレイすると「ざまぁ」と思わず口走ってしまうような展開だ。
それら全てを一気に思い出し、メアリの頭の中はまさに混乱状態だった。
ハゲかかった副学園長の長ったらしい話も、明らかにカツラな指導担当の長ったらしい話も右から左で頭に入ってこない。
美人だが気が強く、きっちり巻かれた
しかし、それがゲームの
なにより、今問題にすべきは強固な
となれば自分が進む道はただ一つ、悪役令嬢としての人生の先に待ち構えているのがしっぺ返しと没落だというのなら……。
「いっそのこと前向きに没落しようと思うの!」
「なんでそういう結論になりますかね!?」
迷いのない真っ
代々アルバート家に仕える従者の家系でありメアリより五つほど年上の彼は、本来ならカレリア学園に入学する権利を持ち合わせていない。それでも男子生徒用の制服を
これもまた、アルバート家の権力の
そんなアディとメアリは、
「しかしですよお
「なによアディ、あんた私の従者のくせに私の言うことが信じられないの?」
「はい、まったくもって、これぽっちも信じられません」
「迷いなく言い切ったわね……まぁ
メアリの言う『乙女ゲーム』とやらの存在も信じがたいというのに、そのうえ彼女は「ここがそのゲームの世界だ」とまで言ってくるのだ。相手がメアリでなければ鼻で笑うか、もしくは
そこまで考え、ふとアディがメアリに視線を向けた。
彼女はここがゲームとやらの世界で、おまけに自分は前世の記憶が蘇ったと言っている。だが今目の前にしているメアリに変わった様子は無く、話の内容こそ現実
「お嬢……つかぬことをお
「……メアリ・アルバート。カレリア学園高等部三年、
「聞いてないことまで
「主に外交よね。国外にまで手を出してるし、おかげで海外の
「うーん、なんともお嬢らしい回答。いや、でもこれぐらいなら誰でも答えられるか……それじゃ次です。今年の目標は?」
「私のことを疑って
「そう言い続けて?」
「早数年」
そろそろ本気で取り組もうかしら、と付け足すメアリに、アディが
もちろん、これ以上続ければメアリが目標達成に動きかねないし、なにより今の
よかった、とアディが
「いやだって、前世の記憶だ何だと言い出すから、てっきりその記憶とやらで人が変わったのか、もしくはドリルの重みに負けて頭がおかしくなったのかと思いまして」
「ねぇちょっと後半のひどくない?」
「それほどまでに俺にとっては信じ
睨みつけるメアリを宥め、アディが話を続ける。
「もしもお嬢の言う通りだったとして、どうして没落するのが分かっていて悪役令嬢なんてやるんですか?」
「そりゃ、そういうもんだからよ。アルバート家のメアリに生まれたからには、没落コースを突っ切るのが道理ってもんでしょ。底なし
「……そうですか、俺は何も言いませんよ。で、この世界がそのゲームというものだったとして、なんて言うゲームだったんですか?」
タイトルを
なんというタイトルだったか。確か
「思い出した。『ドキドキラブ学園~
「うわまたコッテコテな……よくそんなタイトルのゲームを
「あんたの持ってる『
「お嬢ぉ! なんで俺のエロ本のタイトル知ってるんですか! 勝手にひとの部屋入らないでくださいよ!」
「誰があんたの部屋なんて入るもんですか! あんたが私に返す本と間違えて
「すいませんでしたぁー!」
「紅茶片手に
「熟読してる!」
そうしてどちらともなく一息つき、「さて」と小さく
「で、そのゲームだっていうこの世界で、お嬢は悪役をやりたいわけですね」
「そうよ。主人公を追い詰めて、しっぺ返しくらって
「なんでそこまで全力で後ろ向きに走るんだか……まぁ良いですよ、付き合いますよ」
はぁ、と溜息をつきつつ、アディが立ち上がる。
それを見たメアリも続くように
「いざ、没落コース! ラストにギャフンと言うのはこの私よ!」
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