第二百八十二話 空と氷菓と狐娘

「なっ!?」


 夜空に現れた鏡合わせ様な氷の学校。

 空がそれに驚いていると――。


「とまぁ、こんな感じかしらぁ……わからないとは思うけれど、教室の内部まで完璧に再現してあるわぁ」


 と、言ってくる氷菓。

 しかし、彼女の言葉は普段と異なり余裕が感じられない。

 などと、空が考えた瞬間。


 突如、粉々になる氷の学校。

 それと同時。


「っ! 氷菓さん、大丈夫ですか!?」


「えぇ、大丈夫よ……少し眩暈がしたいだけ」


 と、氷菓は本当に大丈夫に違いない。

 彼女はすぐに普段の様子に戻り、空へと続けて言ってくる。


「まぁこの通りよ。けれどさすがにこの規模だと、すぐに砕けてしまうし、動かすことはできないから戦闘には使えないわぁ」


「いや、それでも十分すごいですよ。こんなに精密で大規模な異能を使う人なんて、歴代トップヒーローの中でも見たことがない」


「……本当に一瞬でよければ、この街くらいは氷で作れるわ」


「マジですか」


「マジよ……しばらく異能が使えなくなるリスクはあるけれど」


 それでもすごい。

 それに――。


「すごい綺麗ですよ! 氷菓さんの異能! こんなに綺麗な異能は、見たことがないです! あの規模はたしかに戦闘じゃ使えないのかもしれない……でも、それを補って余りある美しさですよ! 思わず見惚れちゃいました!」


「そ、そうかしら……き、きれいかしらぁ?」


 と、何やら髪をくるくるし始める氷菓。

 照れているに違いないが、彼女の異能は本当に素晴らしい。


(戦闘で今みたいな極大出力の異能は使えないとしても、芸術点が高すぎる。夏とかに花火の代わりに、夜空に氷でできた大きな花とかを描いたら、きっと盛り上がるだろうな)


 と、空がそんなことを考えたその時。

 空史上最強の事件が起こる。


「ク~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!」


 開きっぱなしだったゲートの向こうから、聞こえてくる少女の声。

 空がそちらに振り返ろうとした直後。


「ぐふっ!?」


 空の胴体付近に、シャーリィが勢いよくタックル決めてくるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る