第二百三十六話 空とリーシャと褒美

「大丈夫です、クウ様! ある程度ならば、この店の物はただで購入できますよ!」


 と、そんなことを言ってくるリーシャ。

彼女は「実は」と、わたわたしながら空へと言葉を続けてくる。


「今日、クウ様と出掛けることを王様に言ったんです。そうしたら、王様が『今日、彼が欲しいと言う物は全て、儂が買い与える』って……」


「えっと、それってひょっとして褒美の件かな?」


「はい、多分そうだと思います」


 困った。

 空としてはなぁなぁにしたまま、褒美を受け取らずに日本に帰ろうとしていのだ。

 だが、この様子では王様はそれを見越していた可能性が高い。


 やはりさすがと言うべきか。

 しかもリーシャを噛ませることで、空が断りづらくなっている状況も実にうまい。


(まぁ褒美もらうの忘れた作戦が使えない以上、先日の通りあんまり断るのも悪いしね。それにリーシャが、王様からなんて言われてるか知らないけど……)


 もしも『しっかりと、彼に褒美として何かを買い与えるのじゃ』みたいことを言われていたとすれば、ここで断るのは二重の意味でよろしくない。


 となれば、もうここは思い切って言葉に甘えてしまおう。

 空は心の中で頷いた後、リーシャへと言う。


「もう逃げられそうにないし、褒美として技能書をありがたく買ってもらうよ」


「は、はい! ありがとうございますクウ様!」


 ぱぁっと表情を輝かせるリーシャ。

 どちらかと言うと、お礼をいうべきは空なのだが……。


「えっと、じゃあとりあえず剣の技能書が欲しいんだけど」


「わかりました! 絶対にクウ様の役に立って見せます! わたしは聖女リーシャ、クウ様のために生まれてきた存在ですから!」


 と、リーシャはふんすっと、心なしか鼻息荒そうに言ってくるのだった。

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