第二百三十話 空はリーシャと出かけてみる

 時は翌朝。

 場所はエクセリオンの街、上層。


「おぉ、リーシャ様じゃ……ありがたや、ありがたや」


「あっちは例の勇者様か、これでもうすぐ平和が訪れるんだね」


 聞こえてくる声、声、声。

 空はこめかみの辺りをぽりぽりしたのち、隣を歩くリーシャへと声をかける。


「なんだか恥ずかしんだけど、リーシャもいつもこんな感じなの?」


「はい、わたしが外を歩く時もだいたいこんな感じです……慣れませんよね」


 と、困ったような表情を浮かべるリーシャ。

 空はこういう状況が初めてだ。なので、慣れる慣れない以前に戸惑いがすごい。


「でも偉いよね、リーシャ」


「? なにがでしょうか?」


 ひょこりと首を傾げるリーシャ。

 空はそんなリーシャの真似をし、周囲の人に手を振りながら彼女へと言う。


「こうやって、一人一人にちゃんと反応してあげるところ。さっき『だいたいこんな感じ』って言ったよね? っていうことは、毎回こうやって手を振ってあげるんでしょ?」


「は、はい……ですが、それのなにが偉いのでしょうか?」


「手を振られたら振り返す。単純なことだけど、これを毎回となるとそうそう出来ることじゃないよ」


 リーシャはきっと、手を振っている人のことを常に考えているのだ。


 手を振り返されたらきっと嬉しい。

 手を振り返されなかった悲しい。

 そんな当たり前のことを。


 空もいつかヒーローになったら、リーシャのように声援にはしっかり答えよう。

 彼がそんな事を考えていると。


「わっ!?」


 通りの向こうで、そんな声と共に子供が転ぶのが眼に映るのだった。

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