第百六十四話 空と異世界召喚
「あ、あなたが……勇者様?」
と、言ってくるのは真っ白い少女である。
彼女は潤んだ瞳で、空へ続けて言ってくる。
「あなたが、あなたが勇者様なのですね! 闇を払う剣、世界の希望!」
「え……いや、え?」
っていうか、ここどこ。
と、空は少女へ聞き返したくなる。
けれど、それよりも早く、彼はそんな状況でない事に気が付く。
(周囲に大量の魔物……っ! 見た限りでも五十は超えてる!)
しかも、中にはオーガなどのかなり強力な魔物まで存在している。
空はレベル4になったが、この量を一人で倒せるとは到底思えない。
だが。
(状況はよくわからないけど、この女の子が狙われているんだよね? だとしたら何とかしないと! ここで彼女を見捨てたら、ヒーロー失格だ!)
となると、戦いながら少女と逃げる道を切り開く。
これしかないに違いない。
と、空がそんな事を考えていると。
「勇者様……この様な場所に呼んでしまって、申し訳ありません!」
言ってくる少女。
彼女は空に近づいてくると彼の手を突如握り、言葉を続けてくる。
「ですが、大丈夫です。伝承の通りならば、わたしと勇者様が揃っていれば、あの程度の魔物……問題ではないはずです!」
「えっと、とりあえずよくわからないけど、危ないから離れていて欲しいんだけど」
「ダメです! わたしは勇者様と並んで戦うことを、運命付けられているんです!」
と、少女は空の手をきゅっと力を入れて握って来る。
空がそれに照れている間にも、彼女は更に言ってくる。
「聞いてください、勇者様。聖女には勇者様の力を上昇させる力が二つあると言います」
彼女が言うその力。
一つはどうやら、彼女に召喚された際に自動的に付与されるようだ。
そしてもう一つは――。
「っ!?」
「わかりましたか?」
と、ひょこりと首を傾げる少女。
空はそこで身体の異変に気が付く。
(なんだ、これ……身体の中から凄まじい力を感じる?)
空はこの場所に来たときから、普段より身体に力が漲っているのを感じてはいた。
これは要するに、先の『召喚されたときに付与される力』に違いない。
けれど、空が今感じた力は次元が違う。
きっと、これこそが彼女の言う『もう一つ』。
その発動条件は――。
(この子との身体接触で、更に力がブーストされるってことなのかな? まぁ、僕が勇者かどうかは怪しいところだけど)
空がそんな事を考えていると。
「ぐげげげげ!」
と、魔物達がついに距離を詰め始める。
もはや悠長に話している時間はなくなった。
「キミは下がって! 僕がなんとかするから――」
「勇者様……わたしを信じて、わたしの言う通りにしてください」
と、言ってくる少女。
彼女はまるで祈るように、空へと続けてくる。
「もう力は渡っています。そして、わたしと手を繋いでいる時ならば、使えるはずです。唱えてください……勇者様。いいですか、魔法の名前は――」
もう魔物はすぐそこだ。
もはや逃げ場はない。
何をするにしても、完全に出遅れてしまった。
けれど、何とかなるに違ない。
空は何故かそんな確信を抱きながら、少女から教わった魔法の名を言う。
魔物達へと手を翳しながら。
「聖天魔法 『ホーリーレイ』!」
その直後、空と少女の周囲に凄まじい量の光が降り注いだ。
まるで豪雨のように、大地を抉り続け、魔物を蹂躙していく光の嵐。
数秒後――。
「これ、は……」
空と少女を囲んでいた魔物達は、その殆どが消え失せていた。
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