第百二十話 空と胡桃は武器を選んでみる②
「ふ、ふーん……そ、そう。お、大雑把で繊細じゃないあたしには……な、なにがおすすめと思ってやがるのよ?」
と、ぷるぷるしながら言ってくる胡桃。
シャーリィはそんな胡桃へ、棚からとってきた武器を差し出しながら、彼女へと言う。
「シャーリィのおすすめはこれだ! セスタスだ!」
「なにこれ……トゲがついたグローブ?」
「セスタスだ!」
「…………」
と、胡桃はセスタスを無言でしばらく見る。
その後、彼女はキっと空へと視線を向けて言ってくる。
「ちょっとあんた! どういうことよ? なに? あたしがこんなものつけて戦うほど、野蛮っていいたいの!?」
「え、なんで僕に怒るの!?」
「シャーリィはあたしのために選んでくれたんだから、怒るのはおかしいじゃない!」
いや、その理屈はおかしい。
けれど、空がうまく言葉をまとめる事ができないまま、わたわたしていると。
「それで? シャーリィはどうして、この武器があたしに合うって思ったのよ? もしも変な理由だったら空! あんた覚悟しなさいよね!」
と、またも意味不明なことを言ってくる胡桃。
こうなればもはやシャーリィに全てをかけるしかない。
(頼むシャーリィ! 間違っても『クルミがバカそうだからだ!』とか、『クルミが暴力的だからだ!』とか言わないで!)
もっとも、シャーリィはぽわぽわしている様に見えて、かなり優秀だ。
それはこれまでの付き合いで、空が一番理解している。
きっと、今回もまっとうな理由を述べてくれるに違いない。
「シャーリィがクルミにセスタスを選んだ理由は、とっても簡単だ!」
と、ついにシャーリィが喋り出す。
それをまとめると、こんな感じである。
一つ目の理由としては、胡桃の異能と戦闘スタイルが大きく関係していた。
胡桃は不可視の盾を拳に乗せて撃ちだすことが多い。
よって、もしもの時というサブ武器は、格闘系の方が使いやすいとのことだ。
二つ目の理由は――。
「クルミには剣よりも、セスタスとかの方が似合う気がするんだ! シャーリィの中だと、クルミは格闘ゴリラ娘なんだ! ゴリラ娘族は凄いんだ! とっても強いんだ! シャーリィの憧れだ!」
と、ニコニコ顔のシャーリィ。
胡桃はそれを聞いた後、シャーリィ以上のニコニコ顔で空へと言ってくる。
「ねぇ、くーう」
「な、なに?」
「あたしってセスタスが似合う? あ、別に怒ってないから、ちゃんと言ってね♪」
「い、いいんじゃないかな……ほら、胡桃って盾を拳に纏わせて殴ったりもするし。うん、とっても似合うと思うよ……うん」
と、空はとりあえず言う。
けれど、胡桃の心が読めない以上、ここで言葉を止めるのは危険だ。
空は彼女へと更に言葉を続ける。
「あ、そうだほら! 美しいバラにはトゲがあるっていうし! 可愛らしい胡桃には、セスタスのトゲがとってもアクセントになると思うんだ!」
「ふーん、そう。それで?」
「それでって……なに、が?」
「あたしってゴリラに見える?」
と、言ってくるクルミはニコニコだ。
だがしかし、目が笑っていない。
ここで答えを間違えれば、確実にとんでもないことになる。
けれど、ただ否定するだけでは、シャーリィのゴリラ娘への憧れを傷つけてしまう。
(いや、待てよ……そもそも胡桃はゴリラ娘ってみたことないよね。僕もみたことないし、てきとうなこと言ってもばれないよね、これ)
方向性は決まった。
空は胡桃へと言う。
「ゴリラ娘族っていうのは、地球のゴリラのイメージとは全然違うんだよ! 華奢で可憐だけど、すごく強い種族なんだ! だから、胡桃はゴリラ娘族にそっくりだと思うよ!」
「華奢で、可憐……っ! く、空のバカ! あんた何言ってるのよ!」
と、急に照れだす胡桃。
空はその後、ダメ押しとばかりにセスタスを買ってあげるのだった。
更に、胡桃が記念で欲しがった盾数個もつけて。
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