第百十六話 空は胡桃の真意がわからない

 とまぁ、最近の胡桃は様子がおかしい。

 けれど、空がそれにようやく慣れてきたとある夜。


「んっ……さっぱりしたわ!」


 と、風呂場から出てくるのは胡桃である。

 空はそんな彼女へ、疑問に思ったことを言う。


「胡桃、もう寝るだけじゃないの? パジャマじゃないけど、どっかいくの?」


「よく聞いたわね! さすがは空なんだから!」


 と、胡桃は空と同じくベッドへ腰掛けてくる。

 そして、彼女はそのまま空へと言ってくる。


「ねぇ空、これからあたしは人生において、とても大切なことをするから、それに付き合いなさい!」


「人生相談ってこと?」


「少し違うわ! でも、あたしと空……二人のこれからについて話すって意味では、そういうことで合ってるんだから!」


「なんか話すことあったけ?」


「待って! 勝手に話をすすめるのはやめて! 話の主導権を握るのは、常にこの梓胡桃であるべきなんだから!」


 と、胡桃は偉そうに腕を組む。

 彼女はそのまま「ふふん」と鼻を鳴らし、空へと続けてくる。


「あんた鈍そうだし、あたしも直接言うのは恥ずかしいから、実際に見せてあげるわ! さぁ空、ゲート開きなさい!」


「ゲートって、『道具箱』? こんな時間になんで? 下手に開くとシャーリィがきちゃうよ。シャーリィは僕の臭いを探知すると、すぐに飛んでくるから部屋のお菓子が全部――」


「い・い・か・ら・ひ・ら・い・て!」


 と、ガクガク空の肩を揺さぶってくる胡桃。

 きっと胡桃と結婚する人は苦労するに違ない。


(なんにせよ、ここは胡桃にしたがった方がいいな。いざって時はシャーリィが助けてくれるかもしれないし)


 空はそんな事を考えながら、ベッドの前へとゲートを開く。

 そして、彼は胡桃へと言う。

 


「開いたけど、このあとどうすればいいの? 多分、あと少しでシャーリィが来るよ」


「黙って見てなさい……ここからが勝負なんだから!」


 と、胡桃はベッドから立ち上がる。

 そして、彼女はゲートの方へと近づいていき――。


「や、やった! ふん! つまりこういうことよ! こういうことなんだから!」


 胡桃はゲートの向こう側――異世界 『ファルネール』から、笑顔で言ってくるのだった。

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