第百十四話 空は胡桃とごはんを食べてみる

 場所は学食。

 現在、空は非常に気まずい。

 なぜならば。


「あーん」


 と、言ってくるのは空の横に座る胡桃である。

 彼女はスプーンに乗せたチャーハンを空の口もとへ運びながら、続けて言ってくる。


「ちゃんとふーふーしたから、ありがたく食べなさい! だからほら、あーん!」


「…………」


 ぐりぐり。

 ぐりぐりぐり。

 と、口に押し付けられるスプーン。


 空はそんな中、周囲から視線とささやき声を露骨に感じる。

 件のバケツ話題の中、おもに男子勢がこう言っているのだ。


『ワーストの癖に何やらせてんだ、死ね』


 胡桃はやはりおかしい。

 怪人と戦ってからというもの、時が経つにつれておかしくなってきている。


「あ! 空ってば、口にごはんつぶついてるんだから!」


 と、言ってくる胡桃。

 彼女は空の口のごはんをつまむと――。


「んっ……食べちゃった♪」


「…………」


 正直、空は言いたい。

 誰だお前はと。


(やっぱり胡桃、精神的なやつだと思うんだけど、病院で検査しても特になんともないって言われるし)


 ここは胡桃本人に、直接聞いた方がいいに違いない。

 空はそう考え、彼女へと言う。


「胡桃、最近おかしいよ……どうしたの? どうして急に僕に優しくなったの?」


「あんたバカじゃないの? あたしは前から優しいんだからね!」


「いや、前はもっと攻撃的だったよね。すぐに僕の悪口を――」


「もう! ぐちぐちうるさいんだから! 相変わらず心が狭いわね! でーも、あたしは空のそういうところも……す、すすす、す、すす……すき焼き!」


「え?」


「う、うるさいのよ! このバカ!」


 と、いきなりかつての凶暴性を取り戻した胡桃。

 彼女は空をがくがくと揺さぶりながら言ってくる。


「なんでわからないのよ! 言われる前に気が付きなさいよ! あたしがあんたのことを、どんな風に思ってるか!」


 空はようやく理解したのだった。

 やはり、胡桃はただ単に空を困らせて遊んでいるだけだと。

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