第八十一話 空と氷菓

「で、おまえ……なにか私にいうことは?」


 時は風紀委員室までの移動中。

 空はそう言ってくる氷菓へと言う。


「黙って学校からいなくなったことは謝りますよ。心配してくれたみたいですし……でも、この通りもうぴんぴんしてるん――」


「もうそれはどうでもいいわぁ」


「…………」


 さっきまで、優しくおでこを撫でてくれた氷菓はどこに行ったのか。

 そう思ってしまうほど、冷たい表情の彼女。


 そんな氷菓は肩越しに後ろ――空と氷菓の後をついて歩く胡桃をチラリと見たのち、空へと言ってくる。


「おまえ、あれに勝ったわよね?」


「勝ちました……ね」


「おまえ、ワーストだったわよね?」


「ワーストでした、ね」


 この話の流れはまずい。

 このまま行ってしまうと、氷菓は確実に空が強くなった理由を聞いて来る。

 空としては、これ以上異世界の話を広めたくないのだ。


 と、空が考えていていると。


「どうしてそんなに強くなったのか、私は凄く気になるわぁ」


 氷菓から飛び出す思った通りの質問。

 けれど、続く彼女の言葉は予想外のものだった。


「でも、その様子だと聞かれたくないみたいだし、別に言わなくてもいいわぁ」


「え、いいんですか? 氷菓先輩のことだから、あの手この手で聞いて来るかと……」


「そうしてもよかったんだけど、おまえには嫌われたくないのよ……私」


 と、意外なことを言ってくる氷菓。

 彼女は更に続けて言ってくる。


「それにおまえはいつか強くなるって、私はずっとそう思ってたし……いきなり強くなっても意外じゃなかったわぁ」


「……なんで、氷菓先輩は僕をそんな持ち上げてくれるんですか? 一年生の時も、いきなり風紀委員にスカウトしてくれましたよね。あんなに弱かった僕を」


 空がそう聞くと、氷菓は「ふふっ」っと笑う。

 そして、彼女は冷たい手を彼の頬に当てながら言ってくる。


「おまえの目――ワースト認定されたのに、目が腐ってなかったから……きっとこれは這い上がるって、私にそう思わせたのよ……それに」


 氷菓は最後に一言言ってくる。


「梓さんに取られる前に言っておくけど……私、おまえに一目惚れしてるのよ」


「は!? え――」


 空が突然の情報にフリーズしている間に、氷菓は歩いて行ってしまう。

 後に残されたのは。


「ちょっと、あんた! 一色先輩が行っちゃうじゃない! 早く歩きなさいよね!」


 そんな胡桃の声だけだった。

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