第四十六章 空と人口密度上昇中
「それにしてもこの部屋……少し見ない間に、随分人口密度が上昇しましたね」
と、言ってくるのは時雨である。
彼女は気怠そうな様子で空の方へ歩いて来る。そして、そのまま彼の隣に腰を下ろし言ってくる。
「以前はわたしと兄さんの二人きり……たまに氷菓さんも来ましたけど、あの人は長く居るタイプじゃなかったですからね」
「あ、あぅ……あぅう!」
と、突如聞こえてくる謎の声――その正体は胡桃のものである。
彼女はわなわなわ震えたまま少し後退すると、時雨を指さしながら空へと言ってくる。
「は、白銀ヒーロー『エンジェル』が居るわ!」
「……だから?」
「学内序列一位! 在学中でありながら、特別にプロヒーローの資格を与えられている天才! そして……最強のヒーロー!」
「…………」
「何黙ってるのよ! 白銀ヒーロー『エンジェル』がこの部屋に来るなら、前もって言いなさいよね! そうすれば前もって準備を……いえ、今からでも何の問題もないわ!」
と、テンションマックスと言った様子の胡桃。
空はそんな彼女を見て――。
(いや、時雨はランダムエンカウントだから、いつも前もって約束してるわけじゃないんだよな。まぁ、仮にいつ来るかわかっていても、胡桃に教える義理はないけど)
と、空がそう考えていると。
胡桃は「白銀ヒーロー『エンジェル』!」と、時雨を指さしながらその彼女へと言う。
「サインをくだ――じゃないわ! あたしと今すぐに戦いなさい! あんたに勝って、あたしは最強のヒーローになるんだから!」
「遠慮しておきます」
「な、なによ! 逃げるの!? へーそう、最強のヒーローのくせに負けるのが怖いんだ?」
「はいはい、そうですね……負けるのが怖いから、逃げさせてもらいます」
「なにその態度! プロヒーローなら、ファンサービスしなさいよね! あたしはこれでもずっと、あんたのファンだったんだから!」
「ファンならファンらしくしてくださいよ……わたしのアンチにしか見えませんよ」
と、時雨はため息一つ空へと言ってくるのだった。
「面倒くさい人ですね……こんな人を奴隷にするとか、兄さんの趣味を疑います」
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