第二十一話 空は狐娘をおもてなししてみる②

 シャーリィがお菓子の備蓄を食べ尽くしてほぼ数分後。


「クー! クー! このテレビゲームっていうのすごい面白い!」


 と、言ってくるのはシャーリィである。

 彼女はしっぽをふりふり、耳をぴこぴこさせながら言ってくる。


「クーは毎日こういう遊びができるのか?」


「毎日っていうわけではないけど、休日は結構ゲームしたりするかな。同じ寮に住んでる妹がゲーム好きでさ、色々とゲーム貸してくれ――」


「いろいろ!? ゲームっていろいろあるのか!?」


「え、あるけ――」


「やりたい! シャーリィはいろいろなゲームがやってみたい!」


 と、言ってくるシャーリィ。

 その様子から、言わずともどれくらいやりたいのかが、容易に理解できる。

 しかし。


「もうすぐ完全に夜になるから、そろそろ帰った方がいいんじゃない?」


「嫌だ! シャーリィはクーと一緒にいたい!」


 と、尻尾で床をビチビチと叩くシャーリィ。

 彼女は頬を膨らませたまま言ってくる。


「一回帰ったら、もうクーの世界に来れないかもしれない! だから、シャーリィはずっとクーの傍に居るんだ!」


「いや、それだとシャーリィの家族が心配するよ?」


「大丈夫だ! シャーリィはいい狐だから、信頼されてるんだ!」


「だからって――」


「嫌だ! シャーリィはここに居る! ずっとクーの傍に居るんだ!」


「…………」


 どうしたものか。

 ここに来てシャーリィ、完全に駄々っ狐モードである。


(親に信頼されているから、心配されないって言ってるけど、絶対に限度がある。さすがにシャーリィが何日も帰らなかったら、心配するだろうし……)


 どう考えても帰した方がいい。

 となると、問題はどうやってシャーリィを説得するかだが。


「シャーリィはさっき、自分の全ては僕のものだって言ったよね?」


「言った!」


 と、元気よく返事をしてくるシャーリィ。

 空はそんな彼女へと言う。


「だったら、そんな心配することないんじゃないかな?」


「?」


 ひょこりと首を傾げるシャーリィ。

 さて、これから空は自分で言うのは、なんとも恥ずかしいことを言うわけだが。


(シャーリィと、シャーリィの家族のためだ……仕方ない)


 空は意を決し、シャーリィへと言葉を続ける。


「『シャーリィの心も体も僕のもの』っていうのが変わらない限り、ゲートはいつでも通れる。つまり、シャーリィが僕のことを好きでいてくれる限りゲートは通れるんだ」


「!」


「もっと簡単に言うと、ゲートを行き来することが僕に対する愛の証明になるんじゃないかな?」


(……うん、何言ってるんだ僕)


 しかし、伝えたいことは伝えることができた。

 あとはシャーリィの反応を待つだけだが――。


「クー! シャーリィは嬉しい! クーがそこまでシャーリィのことを考えていてくれたなんて、シャーリィはとっても嬉しい!」


 と、狐尻尾をちぎれんばかりに振るシャーリィ。

 どうやらわかってくれ――。


「でも今日はクーの部屋に泊まる! 明日は絶対帰るぞ!」


「…………」


 わかってくれたのか、そうでないのか微妙なラインだった。

 しかし。


(まぁ一日くらいだったら、シャーリィの家族も心配しないかな?)


 落としどころとしては、なかなか無難なところに違いない。

 と、空が内心頷いたその時。


『生徒の呼び出し、生徒の呼び出しを伝えます。二年生、日向空くん。日向空くん。校長先生がお呼びです。至急校長室までお越しください』


 と、そんな放送が流れてくるのだった。

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