煉太郎

ヘルニア

第1話 惨劇

時は昭和、ただいま戦争の真っ只中である。ここに小さなお守りを持った1人の青年がいた。


「煉太郎(れんたろう)、早く!こっちに、、、!」

「ああ、お袋!この瓦礫ををどかしたらすぐに行く!今助けてやるからな、ミナコ!」

ヒュー、、、ドカアァン!!

「きゃあぁぁ!」

「うわあぁぁ!」

人々の悲鳴が聞こえる。外国の航空機から無数の爆薬が落とされている。街は炎に包まれていた。妹のミナコは家の瓦礫に脚を挟まれていた。

「お兄ちゃん、私に構わず行って、、、この脚じゃあ、瓦礫をどけてもらっても逃げられないよ、、、」

「構うか!それなら俺がおぶってやる。だから、、、」

ドカアァン!と近くで爆撃音が聞こえる。まずい、また火薬を落とされたら、ここは、、、


ドカアアァァン!!!

「うわぁ!」

俺は爆風で吹っ飛ばされた。

「ミナコ!!」

「兄さん!今は母ちゃんと一緒に逃げるしかないよ!ミナコは、、、」

そう言う青太郎(せいたろう)の表情は曇っていた。

「くそぉぉ!!」

俺は倒壊した自宅を背に向けて走り出した。


「煉太郎、ごめんな、最期までお前たちの役に立てなくて、、、」

「お袋、今そんなこと言ってる場合じゃないだろ、急ぐぞ!」



「はあ、はあ、いつまで走れば良いんだ、、、」

「はあ、はあ、確か、この近くに防空壕があったはずよ。だからあと少し、、、」

そう言いかけた妹のキミコとお袋目がけて鉄の塊が降ってきた。

「きゃあぁぁ!」

「お袋!キミコ!」

お袋は恐らく即死だろう。キミコは、、、

「母ちゃん、どこ、寒いよ、真っ暗だよ、何も見えないよ、、、」

目をやられたのだろう、可哀想に、、、それに加えて出血が酷い。もう助からないだろう。

お袋、ミナコ、キミコがやられた。残った家族は青太郎だけだった。

「兄さん!防空壕に急ごう!みんなの分まで生きるんだよ!!」

「あ、ああ、そうだな。ちゃんと生きながらえないとみんなに顔向けできないしな!」

俺たちは防空壕の目と鼻の先まで来ていた。あと少しで助かる、ちょうどそんな時だった。

ドオオォォン!!

視界が真っ暗になり、俺の意識は地に落ちた。


目が覚めると、そこは真っ赤な空が広がる空間だったが、血や太陽とは異なる独特な色だった。そして殺風景で何も見当たらない。

「なんだ、ここ?三途にしちゃあ不気味だな、、、」

俺は辺りを警戒しながら歩き始めた。

そこで幾ばくかの時が経ち、ついにある者と出会う。

「おい、そこのガキ、止まれ」

異形が俺を呼び止めた。

「なんだ?俺に何かようか?」

その異形は大きな人の形をしていたが、頭に2本の角が生えていた。そして全身が空よりも真っ赤だった。

「ああ、お前だ。俺は炎の悪魔。お前、悔しくないか?」

「悔しいって何がだよ」

「お前たちは見るも無惨に散り散りになった。何も抵抗出来ずになす術もなく、な」

「ああ、確かに悔しいさ。でも、俺にはどうすることもできない、、、」

「1つ提案をしよう。今からお前に俺の力の一部を与えてやる。」

「俺に、力を、、、」

「ここは基本的に俺しかいない特殊な空間だ。そこにお前は突如として現れた。これも何かの縁だ。お前を生き返らせてやる」

「俺は、、、」

考えるまでもない。

「青太郎の安否を知るためにも、頼む!」

「よし、いいだろう。今からお前に炎の力を与える。これは自由自在に赤い炎を操る力だ。お前はこの力を持ったまま現世に戻る!」


俺の意識と肉体は現世へと戻っていた。辺りは既に鎮火された後だった。今いるのは恐らくさっきの防空壕の目の前だろう。防空壕ごと破壊されているが、、、青太郎、青太郎はどこだ?

俺は周辺にいた人間の話を聞いた。だがそれも徒労に終わった。民間人は不自然なほどに青太郎にことを知らず、近所にいたはずの人も、そんなのは知らんと一蹴するのだった。

「くそ、どこだ、青太郎おぉ!」

体が熱い。恐らく炎の悪魔の力の副作用だろう。俺は自然と北へ、寒い方へ進んでいった。

時は経ち、猛吹雪が吹き荒れる冬、俺はその中を進んでいた。

「熱い、、、」

それでも、俺の体は燃えるように熱かった。辺り一面雪しかない空間、だがそこに狼の群れを発見する。

「なんだ、あいつら、あっちへ向かっているみたいだが、、、」

俺は気づかれないように慎重に後をつけた。

「お姉ちゃん、怖いよう」

「大丈夫よレイコ、今追い払ってやるからね、しっしっ!」

1人の幼い少女が妹と思われる幼子を庇いながら狼を払っていた。流石にこれでは持たないだろう。俺の体は自然と動いていた。

「ふん!」

真っ赤な炎を操り、狼の群れを焼いた。一匹残らず、、、

「お兄ちゃん、ありがとう、、、」

2人は俺の近くに寄り、俺の手をぎゅっと握りしめる。

「熱いだろう、俺。今すぐ手を、、、」

そう言う間も無く気づいた。彼女らの手が震えている。そうか、今、普通は寒いんだよな。それに怖かっただろう。だが、ジュッと音がするので無理なく手を振りほどいた。

「お前ら、名前は?」

大きい方が答える。

「私はリョウコ」

小さい方も答える、

「私はレイコ」

「そうか。リョウコ、レイコを守って立派だったな。偉いぞ」

俺はかつて妹たちにしていたようにリョウコを褒めた。

「え、えへへ、、、」

「それじゃあ、俺はもう行くな。こんな化け物は放っておいて、今すぐおうちに、、、」

すると彼女らは再び俺の手を握る。

「行っちゃ、や、、、」とレイコ。

「一緒にいよ?」とリョウコ。

そんな無垢な視線を浴びせられるので、俺は仕方なく彼女らについて行くことにした。


歩くこと約30分、、、


俺たちは雪が弱めなところに位置する一軒の小屋たどり着いた。

「ここがお前らの家か?」

「そうよ、一緒に入ってあったまろ?」とレイコ。

家に入ると、そこには大きな暖炉があった。

「ここにはお前たちだけで住んでるのか?」

「そうだよ、私たち2人だけ」とリョウコ。

「そう言えば、お兄ちゃん、名前、なんていうの?」とレイコは尋ねる。

「俺は煉太郎。好きに呼んでくれ」

「じゃあ、煉さんって呼ぶね、煉さん!」とレイコ。

「私は煉太郎さんって呼ぶよ」とリョウコ。

その晩、俺たちは夕食を共にしていた。俺は炎の悪魔から力をもらってからも食事は取れていた。体の構造は特に変化していないらしい。俺は泊めてもらう礼として、火起こしを任された。この力があれば火を起こすのは容易かった。

「煉太郎さん、すごいね、その力」

「うん、煉さんすごい!もっと見せて!」

「ああ、いいとも!」

俺は火事にならない程度の強い火を起こした。彼女たちはそれを見て驚いていた。

「この魚、美味いな。どこで買ってきたんだ?」

「ここから1時間歩くと商業施設があるの、そこで買えるよ。ちなみに私たちは薪を割って生計を立ててるの」

「凄いな、お前ら、意外と力持ちなんだな、、、」

「でしょ?煉さん、私たちすごいでしょ?」

「ああ、すごいぞ、驚いたぞ」

俺は極力体の熱を抑えて彼女らの頭を撫でた。


その夜ふけ、、、


「ねえ、煉太郎さん、やっぱり行っちゃうの?」

俺はこの家を離れるため身支度をしていた。リョウコとレイコが寝ている隙に出ようと思っていたんだが、リョウコを起こしてしまったらしい。

「この力は人から恐れられるものだ。こんな奴を家に置くといずれ悪い大人がやって来てしまうだろう。だから、、、」

「やだ、煉太郎さんは私たちと一緒にいるの!」

「リョウコ、、、」

だが、俺の決意は揺るがなかった。この子たちを守るためにも、俺は、、、

「すまんなリョウコ。じゃあ、俺のとっておきの宝物をあげよう」

俺はそう言うと懐からお守りを半分に千切って渡した。

「これは?」

「俺が小さい時から持っているお守りだ。お前たちに半分やるよ」

「、、、うん!これなら煉太郎さんのことを忘れないよ!命の恩人だもの!」

「ああ、じゃあ、またな」

俺はそう言い残し、その家を出た。

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