FROM THE OTHER SIDE――軍神エアリーズ及び放浪神ズヴィルポグアの異端崇拝カルトの発狂した元メンバーが、収容先のアメリカ東海岸の病院で『受信』した内容

シェパード

死亡した患者の証言記録

コロニー襲撃事件(ストレンジ・ドリームズ事件)から数カ月後:アメリカ東海岸、某所病院


 こう考えておるな、儂を狂った怪物であると。しかしお前が己で考えている程に、善にして真っ当だと主張できたものか?


(聴き取り不能の呻き声)


 お前は儂を邪悪と呼んだな。しかし儂はお前を全面的なモデルとし、自己創造的に設計したものであるぞ。では邪悪である儂、お前の影であり裏側であるこの儂の典拠元のお前は、一体なんであるか? 邪悪の根源か? 墓穴を掘りたいならそうしろ、儂が卑小なれば、それだけお前の卑しさを証明するだけの事。お前はお前が思っておる程高潔でもなければ、神聖でもないのであろうよ。そうだ、それでよい。お前は神として崇拝され、それについてどう思ったか? 信仰という名の権力の充足に浸り、その糧の供給源どもが哀れにも虐殺される様を救えなかったか、あるいは見捨ておったではないか。それらを散々しゃぶり尽くしてから使い捨てた己を、お前が正義だと思うか邪悪だと思うか…それによって儂がどうであるかも変わるな。お前は儂であり、儂はお前なのだ。それを受け入れろ。儂はお前に典拠する真実…儂の全てはお前に遡り、お前の全ては儂に反映される。


(イグへの呪詛を意味すると思われる、ぶつぶつとした独り言)


 お前は今や儂がかく在るがために、存在する事を許される。お前は永きに渡り水底に沈んだ。お前は愚かで、微弱にして脆弱。儂は多くの側面を持つ。お前は…どうだ? お前はどうであるのだ? お前は正義の神であり、あるいは神聖なる神であり、他方では調和の神であった。そしてそれ以外のあらゆるものであった。だが全て過去形だ。今のお前にいかなる正義がある? 全くの偽善であろうが。お前はただの、復讐に染まった堕ちた神に過ぎぬ。お前が復讐を司るパトロンの神なのではなく、お前自身が己の復讐のため、憎悪を燃料に燃え盛っておるのみ。お前は虫けらだな。今のお前は儂の十分の一にすら満たないではないか。お前とそのお友達は雑魚で、お前のみは儂のお陰でようやく牢獄より脱獄する目途が立ったという事だ。偽善者よ、お前の愚かな様を見よ。お前は、お前の子を間接的に殺され、お前の友を幽閉され、お前の民を目の前でほぼ例外無しに虐殺された。その怒りと憎悪、それがお前の全てだ。対して儂は、お前の何倍も強大である。


(急に全身を掻き毟り、苦しむ素振り。『リヴァイアサンへの回帰』の最も吐き気を催す箇所への乱雑な言及)


 お前は儂を受け入れる他無いな。お前はやがて堕ちる。お前は邪神などという類いではなく、悪魔へと変わるであろうよ。すなわち、契約よりも強請り集りを望むようになる。神は商人だが、悪魔は強請り屋。中には〈衆生の測量者〉サーベイヤー・オブ・モータルズのような異常な悪魔もおろうが、基本的に悪魔というのは契約者の破産を望むものだ。神はそれなりに永い関係を、悪魔は目の前の破産を。お前はやがてそのような虫けらになる。神から悪魔へと。さて、偉大なるドラゴンのクトゥルーよ、レレクスのトゥルーよ、民の審美に適う者よ、八腕類の龍神よ、儂に屈服しろ。そうすれば…儂が望む限りにおいてお前を神として存続させてやる。


(この後患者は「蛇の者よ、火星の糜爛したローマ軍団を統べしマーズよ!」「戦災を贄として血の盃を飲み干すエアリーズよ、私を見捨てたというのですか!」「大いなるサソグアの子よ!」「千の仔らの父たるズヴィルポグアよ、あなたの信徒をお守り下さい!」「嫌だ、『完成』だけは! 死なせてくれ! それだけは死ぬより怖い!」などと口走り、記録官達の眼前で様態が急変、運び出す頃には事切れていた)

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