永遠

島崎町

 春、自分に手紙を書く少女がいた。

 少女は孤独ゆえに、自分宛に手紙を出した。

 手紙は数日ののち、また少女のもとへ返って来るだけなのだが、

 少女にはそれが、別の誰かが書いた返事のように思われた。


「こんにちは」と少女は書いた。

 数日後、「こんにちは」という手紙が戻って来た。

「お元気ですか?」と書いて送ると、「お元気ですか?」と返って来た。

「私は元気じゃありません」と書くと、「私は元気じゃありません」と。

 少女は手紙に、「お友達になってくれませんか?」と書いた。

 すると向こうからも、「お友達になってくれませんか?」と来た。

「いいですよ」と返事を出すと、「いいですよ」と返って来た。

 少女は生まれてからずっと孤独だったが、はじめて、寂しさを忘れた。


 夏、少女は一人の男を好きになった。

 自分でも意外だったが、少女は男に手紙を書いた。

「お友達になってくれませんか?」と。

 それから二人の文通が始まった。

 少女はたくさんの言葉を書いて送った。男からも頻繁に返事が届いた。

 今や、少女は一人では無かった。

 そうして、自分宛に手紙を出すことも無くなった。


 秋、男が戦争に取られてからも、少女は男に手紙を書いた。

 男からもしばらくは手紙が届いたが、徐々に間隔が空き、ついに手紙は来なくなった。


 冬、少女は人づてに、男からの手紙がもう来ないことを知った。

 男は大陸で、寒さと共に眠りについたのだという。

 少女は、男からの手紙をすべて燃やした。

 この熱で、氷の下で眠る男を、少しでも暖めることが出来たなら。

 そう思って少女は泣いた。


 また、一人になった。

 少女は孤独ゆえに、自分宛に手紙を出した。

「寂しい」と。

 しかし、何かの手違いで、手紙は返って来なかった。

 少女は本当の孤独を知った。この寂しさは、永遠なのだと思った。

 それから少女は、手紙を書かなくなった。

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永遠 島崎町 @freebooks

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