火の鳥 ー焼き鳥編ー

新座遊

第1話(最終話)焼き鳥

僕のペットは火の鳥だ。

名前は焼き鳥。

本人は嫌がっているが、体臭が焼き鳥っぽいのでそう名付けたのである。


昨日のことだった。

万年カーテンを引いて外光を遮断している僕の部屋に、ベランダから鳥の囀りが聞こえた。

光を浴びないようにマスクなどの重武装してから、カーテンを開ける。

そこに、炎に燃えるような鳥の姿があった。

慌てて窓を開けた。すると、マスク越しにも匂ってくるのが焼き鳥の香り。

炎は他に延焼することもなく、ただひたすら鳥に纏わりついている。


僕のペットに成りたがっているに違いないと直感し、部屋の中に入るように促したら、飛び込むような勢いで入室してきた。


そしてすぐに彼とペット契約を結ぶ。すなわち名付けである。

「君の名前は焼き鳥だ。そんな感じがする」


火の鳥、フェニックス、不死鳥。

いろいろ呼び名はあるものの、まさか焼き鳥っていう名前を付けられるとは思わなかった、という雰囲気を醸し出す。喋りはしないが、伝わってくる。

さすが長生きする動物だ。人語くらいは理解できるらしい。

まあ僕がそう思っているだけで、実は何も考えていないのかも知れないけどね。


長生きと言っても寿命は500年くらいだったかな。

寿命を迎えると、自ら炎に飛び込んで死ぬらしい。そこから再生するところが不死鳥と呼ばれる所以である。

経年劣化した身体を理解し、炎で分解し、炎で再構築する。まるで錬金術の原理のようだ。

焼き鳥は、炎の代わりに僕の部屋に飛び込んできたというわけで、寿命が来たのかどうか定かではない。


僕は死んだことがないので焼き鳥の気持ちはあまり判らないのだけど、自ら炎に飛び込んで死ぬときの気持ちってどんなもんなんだろうか。

いや、それは普通の動物の持つ気持ちとも違うんだろう。死ぬことは生き返ることと同じであろう不死鳥。翌朝目覚めることを想像しながら眠りにつくようなものか。

だから死ぬときの気持ちは彼にも判らないかも知れないな。


よりによって僕の部屋を選んだ、僕を飼い主に選んだことの妥当性はいかがなもんかな。

僕の部屋は日差しを憎む。僕は太陽のもとでは生きられない。だけど、それ以外の原因では死なない。だから死んだことがない。

死なない僕と、死んでも再生する焼き鳥。どちらが幸せなのか。長い付き合いになりそうだから、じっくりと語り合っていこう。


と思ったら、翌日、焼き鳥はコンロに飛び込んで死んでしまった。

残ったのは、本当の焼き鳥だった。



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