第19話
蓮木星美と別れたあと月下は彼らの姿が見えなくなったのを確認するとスマホを取り出し電話をかける。
幾度かのコール音の後電話は繋がった。
「貴方からの電話と言う事はやはり今日貴方の正体がバレましたか、月下忠光」
脳に浸透するかの様な美しい声、それは様々な快楽を体験した月下を持ってしても心安らぐ癒しを持っていた。
「流石だな。その通りだ、私から連絡がある事もお見通しだったのか?」
冗談の様にも聞こえる質問だったが月下にはそんなつもりはない。
コイツは全てを見抜いているんだろうという確信を持って聞いた事だった。
「はい。もちろん分かっていますこれまでのことも含め全てわかっていますよ」
「ほう、なら星美のことも分かっていたということか?」
「そんな事、貴方がアレに近づいた時点で分かりますよ。貴方が近づいた人間で不幸にならないものなどいないでしょう」
当たり前の事をなぜ聞くのかと逆に疑問を投げかける様な言い方だが月下は確かにと笑う。
「その通りだな。不幸にしようとして近づいているんだ幸せになるはずがない。だが君は良かったのか?ヒル、彼女君と縁があるじゃないか」
その言葉に電話に相手ヒルは軽くため息をついた。
「関係ないですよ。彼女と自分の間には何の関係もない出会ったことすらないんですから」
そんな事実だけをスラスラと話すのは言い訳の様で普段超然としている態度が崩れる様は面白いと月下は笑う。
「そうだったな」
「今回はまた随分、時間をかけていきましたね。まだ蓮木星美が高校生の頃からの遊びなので10年越しですか」
「好きなものはじっくりと味合うタイプだからな。けれど、あの時たまたま蓮木家で星美に会ったのはまさに運命だったな。あそこで会うことがなければ私もこんな事する事はなかった」
そうあの日久しぶりの故郷への帰省でかつての青春を懐かしみふらりと立ち寄った蓮木家。
昼夜の事など当時は知らなかったので彼の失踪には驚きはしたが、それ以上にそこで星美に出会えてこの計画が思いついたことに喜び震えたことを憶えている。
そして今それも完結した。
何事も自分の計画が思い通りに終わるのは実に気持ちがいい。
これだけ長い時間を費やしたなら尚更に。
そう考えるとこの街に戻ってきたのは自分の人生において転機だったのかもしれないと月下は考える。
実際、星美以外にも面白い人物たちと出会えて暇を潰すことができた。
街に帰った初日に出会ったあの田染大地という少年も星美の友達だった架橋芹香もどちらも自分を楽しませてくれた。
出会いのインパクトでは田染大地が一番印象的だった。
何しろ出会い頭で少女を殺していたのだから。
人が殺される光景を見るのは別に初めてではなかったけれど、それを偶然目撃したのは初めてでなかなか新鮮な体験をさせてもらった。
こんな場面で出会えたこの子はもしかしたら自分にとって特別な存在になる者かとらしくもなく変な錯覚を抱いてしまうほどに。
実際は接してみると平凡な彼にはすぐに飽きてしまって早々に追い込んで死んでもらったが、その期間で星美に会えたのを考えるとやはりどこか運命的だったんだと思えてしまう。
後から知ったが彼が星美と同じクラスメイトということも驚かされたものだ。
けれどクラスメイトというのは良いヒントを貰えることが出来た。
その関係は使えると思えたのだ。
実際問題、星美との関係は非常に薄い私が彼女の事を知るのは少しばかり面倒だった。
手がない事はなかったが、彼女の情報を手に入れる前に深入りしすぎるのは好まなしくなかったので、ちょうど人手が欲しいと考えていたところだった。
目星はすぐについた。
いつも星美と一緒にいる友達であろう少女。
彼女に目をつけたのはもちろん星美と親しそうというのもあるが、時折覗かせる表情。
じっと一点星美の顔を見る甘い視線は溶ける様な甘い感情が覗いていた。
それがもし恋愛感情から来るものなら面白そうだと思って芹香に近づいた。
芹香は駅前の喫茶店でアルバイトをしていた。
そこが私の学生時代からの行きつけの店だったのは運命的というよりもはや出来過ぎで笑いそうになった。
彼女と親しくなるのはそう難しいことではなかった。
常連客として通う中で少しずつ距離を近づけていき、その中で星美の話を匂わせると向こうから私に食らいついてきた。
そしてやはり彼女は友人である星美に友情ではなく恋愛感情を感じている事も聞けた。
彼女自身自らのこの感情に迷っていた様で突けば埃のようにどんどんと話が出てきた。
やれ自分はおかしんじゃないだろうかやら、星美に迷惑かけるなどいろいろ相談もされた。
正直馬鹿らしく彼女が自分を押さえつける理由など分かりはしなかったので『君のその想いは間違ってなんかいない。誰かが好きだって思いが悪いもののはずないじゃないか』と言ってあげると彼女はどこかほっとした様にありがとうございますと感謝を述べた。
結局彼女が求めていたものは自らの肯定者だ。
己はおかしくないと安心が欲しかったのだろう。
安心し切った幸せそうな人の顔を見るとどうしても歪めたくなるには私の性なのだろう。
この女が裏切れば星美はどんな顔をするのか、そして私が裏切ったらこの女はどんな顔をするのか。
それを想像すると脳からジュワリと快楽の蜜が流れ脊髄を伝い体を震わせる。
己の欲と現実の壁そのストレスは誰もが持っているものそれをどう克服するかで人の幸せは決まる。
だから私は己の幸せのために彼女を犠牲にすることに決めた。
そこからの行動は早かったと思う。
芹香の相談に乗りつつ星美の動向を聞き出しどの様な人なのか人間関係を知る。
それと同時に徐々に芹香を私好みの思考へと導く。
もともと悩みを聞いてる身だったため彼女の倫理観をゆっくりと壊すことなど造作もなかった。
そして、相談を受ける様になって1ヶ月ほどで私は芹香を抱いた。
これまで恋愛経験がなく、性体験もなかった芹香が彼氏のいる星美と自分を比べその差に不安を覚えたそうだ。
ならば経験すると良い、私が相手になってあげよう。
何事も経験する事はいい事だ。
私がそう諭すと彼女はどこか府に落ちない顔をしながらも渋々それを受け入れた。
ゴムはもちろんしなかった。
芹香と星美、友人同士の女二人を孕ませるのも面白いと思ったから。
「ゲスですね」
そこで電話越しのヒルは珍しく不機嫌そうに否定的な声を上げた。
「私がこういった奴なのは知っているだろ?今更だ。それとも同じ女の体だから思うところでもあったか?」
「そうですね、今のこの不愉快な感情はこの体ヒルから発されてるものです。やはり貴方の欲情剥き出しの行動には険悪感が湧きます。この身が女のものだからかは分かりませんが」
少しのからかいのつもりだったがどうやら当たりだった様だ。
「ほぅ、興味深いね。少なくともかつての君はそんな事考えもしなかっただろうに」
「自分も色々と経験しましたから」
その一部始終を共に経験できなかったのは残念だと思う。
再会した頃のあの怪物がここまでヒトに近づけた。
その移り変わりを私自身の目で確認したかった。
「架橋芹香、彼女に蓮木星美を襲わせる様に仕向けたのは貴方と蓮木星美の仲を近づけるためですか?」
「ああ。危機的な状況を救った方が落ちやすいだろう?もともと星美は私に好意を抱いていたしな。芹香の方も全く進展しない現状に不満があったからな、背中を押してあげれば後は勝手に落ちていったさ」
「好きな相手に危害を加える理解できないですね。まぁその点は貴方も似た様なものですが」
「確かに」
このヒルに人の感情がどの程度理解できるかは分からないが意外と的を言った指摘につい吹き出して笑ってしまう。
「それで、これでとりあえずは貴方のお遊びは終わりですか?」
「ああ、後は星美が妊娠していたら嬉しいがさてどうなることやら。」
月下はその不確定な未来と星美が見せた最後の態度が兄の昼夜を彷彿させたことでこの先をもう少し見たかったと少し名残惜しく思うのだった。
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