第3話

「ねぇ、どうする?どっか遊びに行っちゃおうか?」

授業が終わり帰宅準備をしていると芹香は少しはしゃいだ様な声で私を誘ってくる。

「でも先生たちが見回る言ってたじゃん。見つかるとまずくない?」

せっかくの休み芹香の気持ちも分からなくもないけど、厄介ごとはごめんだ。

それに今日遊ぶのは死んだ子に対してなんだか後ろ髪を引かれるような罪悪感を覚えてしまう。

「大丈夫しょ、そんな簡単に見つからないよ!ねぇどっか行こ!」

渋る私を芹香はより強引に誘ってくる。

どうやら芹香の中で遊びに行くことは確定事項のようで、どうにも断れそうにない。

正直言えば行きたくない。

だけど、ここで断って芹香の機嫌を損なうのも嫌だ。

どうしようかと悩んでいるとポケットの中のスマホが振動した。

見ると、公男からLINEが届いてた。

〔一緒に帰ろ。正門で待ってる〕

これはラッキーだとつい頬が緩むのを感じる。

「ごめん公男が一緒に帰ろう言ってる」

「栗見先輩が?ふーん」

そこで芹香の顔に笑みがこぼれる。

にっこりというよりニヤリとした少しいやらしい笑みだ。

「優しい彼氏さんだね~いいなぁ」

「いや~そうでもないよ頼りないし」

なんか人に彼氏の事を褒められるのはくすぐたくって居心地悪くなる。

だからほぼ反射的に否定をしてしまう。

そんな私に芹香はなぜか驚きの表情を見せた。

「はぁ!?ほっしーまじで知らないの?栗見先輩狙ってる子かなりいんだよ!」

それは私からすれば驚きの事実だった。

私の知ってる公男は優しくはあるけど男らしいというよりは大人しく物静かで目立つような存在ではなかった。

顔だって、客観的に見てカッコいいとはいえない。

そりゃ不細工でもないけど、どちらかというと愛嬌がある可愛らしい顔をしてる。

そんな彼が女子に人気だと言われてもあまり腑に落ちない。

そんな私の様子を察したのか芹香は再びニヤリとすると私に耳打ちする。

「実は私も狙ってたんだよね」

「えっ!?」

驚きからかそれともその告白への拒否反応からか自分でもよく分からない感情に支配された私は後ずさりをして芹香から距離を取ってしまう。

「へー栗見先輩の事をあんまり気にしてない風なのに警戒心は持つんだぁ。ちゃんと彼女してんじゃん」

その小馬鹿にしたような言い方に腹が立ち芹香をにらめつけてやると、芹香は少し目を見張り直ぐに私をなだめだした。

「ちょ冗談だって怒んないでよ!」

「冗談?」

「流石に友達の彼氏そんな風にみないって」

芹香のを弁解を聞きなんだと胸をなでおろす自分に少し驚きを感じる。

私ってこんなに嫉妬心強かっただろうか?

公男と付き合ったのだって告白されて別に断る理由がなかったからそれだけだったのに。

予期せぬ自分の感情に少し戸惑いを覚える。

なんか不思議な感覚、自分のことなのによくわからない。

「でもさぁ、私には冗談だけど栗見先輩が人気あるってのはマジだよ」

「本当?」

そう今度は嘘は許さないって意味合いも込めて顔を覗き込むと芹香はコクリと頷く。

「いやそんな話聞いたことないし」

「そこまほら気使ってるんじゃないの?」

そうなんだろうか?

この話が初耳の私にそこを判断する手段は今はない。

「でもなんで公男なの?私がいうのもなんだけど、そんな目立つようなタイプでもないと思うけど」

そうだだからこそ私はこの人なら自分だけをみてくれるだろうって安心していたのに。

「まぁね、っていうのはほっしーに悪いか。でもさぁ、栗見先輩めちゃ優しんだよね」

そんなことは言われなくてもわかってる。

だけどそれだけでそんなにモテるものだろうか?

「栗見先輩はあのさりげなさ自然な優しさがいいんだよね。変に下心があるわけじゃないあの感じが。ああ、この人本当に優しい人なんだなって思えたから」

今日の芹香はやけに饒舌で、私は少し圧倒されてしまう。

「そうなんだ、気をつけるようにするよ」

そう私は話を強引に終わらせると公男と一緒に帰ることを芹香に告げ教室を出た。

教室を出ると廊下には生徒がごったがえってた。

ワイワイと賑やかなその空間はさっきまで少しシリアスな空気を出していた教室とはまるで別世界だ。

どこの教室もほぼ一斉に終わったのだろう、川の流れのようにみんな下の階へと流されていく。

私もその流れに乗って行くと河口と化した下駄箱前に公男の姿があった。

誰にも邪魔にならないようにと廊下の隅に佇むその姿はやっぱり影が薄く芹香の言うようなモテモテの人物には見えない。

だけど、その話が本当だとしたらそんな彼の彼女であることはなんだか誇らしく思える。

私はちょっとだけ気分良く公男の元へと向かう。

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