第54話決着

「ライン! 勝つのです!」


 私は思わず叫んでしまう。

 大切な学園での仲間。

 そして大事な幼馴染ラインハルトの勝利を命じる。


「ああ、任せろ、マリア! いくぜぇええ!」


 ――――そしてラインハルト=ヘルトリングの剣は、一筋の光を放つ。


 勝負は一瞬だった。


 ラインハルトの剣が眩しく輝いた直後。

 “神殺双槍ロンギヌス”を真っ二つに切り裂いていたのだ。


 シュウ…………


 体内の“コア”を斬り裂かれた“神殺双槍ロンギヌス”は、塵となり空中に消えてゆく。


 間違いない。

 騎士ラインハルトが勝利したのだ。


 本当に一瞬の攻防。私は目で追うことも出来なかった。


 おそらく状況的に、こうだったのだろう。


 ――――妖魔の槍が、ラインハルトの首を貫く瞬間。ラインハルトは剣を抜いて、妖魔を斬り倒したのだ。


 ゲーム内でのラインハルト=ヘルトリングの秘技|光速剣《ライトニング・スラッシュ》を、おそらく放ったのだろう。


 消えていく妖魔に向かって、ラインハルトが口を開く。


「てめえはマリアを傷つけ、泣かせた。それがてめぇの敗因だ」


 そう告げているラインハルトも、無事ではなかった。

 首から血を流している。


「ライン、血が。このハンカチを使ってください」


 ラインハルトに駆け寄り、首の様子を伺う。

 頸動脈は無事だった。なんとか一安心する。


 でも、本当に僅差の勝負だったのだろう。

 ほんの一瞬でも《光速剣ライトニング・スラッシュ》の発動のタイミングがずれていたなら、死んでいたのはラインハルト方だった。


「どうして、こんな無茶な戦い方を⁉ ジーク様と共闘していたら……」


 私は思わず詰め寄ってしまう。

 助けてもらって嬉しいけど、逆に心配になってしまったのだ。


「無茶な戦いを? 小さい時から、オレ様は言っただろう……『マリアを泣かせる奴はオレが許さない!』……ってさ」


 気まずそうにラインハルトは釈明する。


 ああ……その約束は覚えている。

 母マリアナを早くに亡くして、当時の幼い私マリアンヌは、よく泣いてばかりいた。

 その時に私に対して、幼馴染のラインハルトが一方的に誓ってきた、約束の言葉だった。


「マリアを守るためにオレ様は騎士になった。マリアを泣かすヤツを、全員ぶっ飛ばすためにな!」


 ラインハルトは少年のような顔で、自分の想いを明かす。

 だからこそ今の自分は、最強の騎士を目指しているのだと。


「おい、ライン。だが今はお前が、マリアを泣かせているぞ」


 あっ……いつの間にか私は涙を流していた。

 安心感と感動。色んな感情が混じり合い、思わず泣いてしまっていたのだ。


「この場合はどうなるのだ、ライン? お前が、自分を、ぶっ飛ばすのか?」


 涙を流している私を見て、ジーク様が尋ねる。

 この責任の所在はどこにあるのかと、ラインハルトに真顔で聞いていた。


「それは……あれだ。今度の昼飯をおごるということて、チャラだ!」


 気まずそうな顔で、ラインハルトは釈明する。

 それにしても乙女の涙を、たった一回の昼飯でチャラにしようするなんて。

 相変わらず女心が読めない男だ。


 でも今は不思議と、私の心は救われている感じだ。


「ふう……では仕方がありませんわ、ライン。あとジーク様も。外に残存する妖魔を全て倒したら、許してあげますわ」


 まだ戦は終わっていない。


 バルマンの民と妖魔軍の戦いは、まだ城門前で繰り広げられている。

 更に今は各諸侯軍と、クラウドお兄さまの率いる炎竜騎士団が加わり、混戦を極めていた。


 今のところ友軍が、圧倒的に優勢。

 だからこそ一刻も早く戦いを終わらせ、平和を取り戻したい。


 そのために二人の力を貸して欲しいのだ。


「もちろんだぜ、マリア!」

「ああ、任せておけ」


 ラインハルトとジーク様は静かにうなずく。


「だが、あの数が相手だ。さすがのオレ様たちも、少ししんどいな。なぁ、マリア?」


「そんな遠まわしでは、このマリアには通じないぞ、ライン。ストレートに言った方がいいぞ。“契約の儀”を結んで欲しい」


「ちっ……相変わらずムードがないな、ジークは。という訳で、お前の力を貸してくれ、マリア!」


 二人も私に頼んできた。

 騎士である自分たちの"本来の力”を覚醒するために、私と"契約の儀”を結んで欲しいと。


「ええ、もちろんですわ」


 私も静かにうなずく。

 この二人と"契約の儀”を結んだら、私の死亡フラグは一気に加速する危険性がある。


乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーマリアンヌ・バルマンが、騎士ラインハルト・ヘルトリングに問います。その命が散るまで、この私のために剣を振るうことを誓いますか?」


「誓う!」


 でも今は不思議と怖くなかった。


乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーマリアンヌ・バルマンが、騎士ジークフリード・ザン・ミューザスに問います。その命が散るまでこの私のために剣を振るうことを誓いますか?」


「誓う」


 何故なら今の私は、頼もしい二人の騎士の……二人の“仲間”の想いを感じていたから。


「はっはっは……これが"契約の儀”の力か……すげえな!」


「慢心するなよ、ライン。あくまでも"仮契約の儀”だ。全快といかないぞ」


「ああ、分かっている。だがジークも感じているだろ? このマリアの力さえあれば、怖いモノなどないって!」


「ふっ……そうだな。悪くはないな、これも」


 乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーと契約することで、騎士は多くの力を解放することが出来る。


 それは誰かを守る力。大事な人を想うことによって、騎士は最強の力を発揮するのだ。


「それでは、お父様。私も行ってまいります」


 傷ついたお父様は、駆け付けた衛兵に託しておく。


 だから私もラインハルトたちに付いていく。

 バルコニーから“天馬ペガサス”にまたがり、乙女指揮官ヴァルキリア・コマンダーとして戦場を指揮するのだ。


「では参りますわよ。ライン! ジーク様!」


 こうして私たちは戦場へ駆け下りていくのであった。


 ――――それからしばらくして、バルマン攻防戦は終わりを迎える。


 勇敢な騎士と兵たちの活躍によって、全ての妖魔が駆逐された。

 バルマンに平和が戻ってきたのだ。

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