第46話 ホルスは使えます。

 ケインは男爵でラムル村の領主らしいのだが、

「領主様!

 領主様!」

 との声に、

(誰だそれ?)

 と自覚が無い。


 ミラグロスが、馬に乗るケインの横に近づくと、

「ケイン殿、村長が呼んでいますが?」

 とケインに促した。

(おっと、俺って領主だった)

「なんでしょう?」

 ケインが聞くと、

「コッコーの糞とホルスの糞が結構な量になっているのです。

 匂いもしますので、どうすればいいかと……」

 困った顔で村長が言った。

(現在牛乳が売れている関係でホルスの数を増やしているんだよな。

 さらには自然増加を狙い、オスのホルスも放牧している。

 肥料になるのを知らないのかね?)

「コッコーの糞やホルスの糞は畑に鋤き込めば肥料になりますよ?」

 ケインが言うと、

「肥料ですか?

 本当ですか?」

 疑いの目。

(一応領主なんだがなぁ。

 無条件の信用ってのはまだないか……。

 でも、糞が肥料なのは知らないのだろうか……。

 そういやオヤジが牛糞はすぐ使えるが、鶏糞はきついから鋤き込んでから少し置いた方が良いって言ってたな。

 ふむ……)


「今からだと何の作物を作る?」

 ケインが聞くと、

「大豆でしょうか?」

 村長が言った。

(牛糞を使ってみよっか)

 ケインは見よう見まねで思い出し、木や鉄を使って鋤を作る。

 そして、ホルスのオスの一頭を連れてくると、その鋤に繋いだ。

 ケインが鋤を使って、畑を起こしていくと「おぉ……」という声が村人から上がった。

 魔物であるホルス。

 しかし、既に村人に慣れており、耳の裏を撫でてやると嬉しそうに「もウ~」と鳴いていた。

「ホルスにこのような使い方があったとは……」

 村人たちは驚いていた。

「ホルスは人よりも力がある。

 道具さえあればその土地を起こすことができる。

 起こした土地にホルスの糞をまけば肥料になり、収穫量が上がる」

 フンフンと村人たちが頷いていた。

 結局、王都の鍛冶屋に俺が作った鋤と同じものを四つほど発注した。

 現在ラムル村に居るオスのホルスの数が五頭だからだ。

(今までの人力よりは早くできるだろうし、使い慣れてもらわないと俺の魔法で終わらせていては俺が居なくなった時に困る)

 こうしてケイン村では肥料として魔物の糞を、労働力として魔物を使うことになる。

 おかげで収穫量と作業効率が上がる。

 そして鶏糞は冬に漉き込んで春の作物に使うのだった。


 ある日、王都の屋敷にルンデルさんが現れた。

「ケイン様。

 ラムル村の収穫量の多さと、家畜としてのホルスの事が巷で噂になり、ホルスを家畜として飼いたいという話が出てきております」

 ルンデルがケインに報告する。

 大豆の収穫量が多かったことで、目ざとい商人がラムル村の秘密に気付き、交渉に現れるようになっていた。

「無理ではないが、なかなか難しいだろうね」

 とケインが言った。

「というのは?」

「まず魔物を服従させる必要がある。

 それをだれがやる?」

 無言のルンデルの視線がケインに刺さる。

(あっ、俺か

 まあ、確かにそうなるだろうね)

「爵位が無い学生だったのなら可能だろうけど、時間が無いね。

 商業ベースに乗せるほどは難しいよ。

 今は、ラムル村の分でいいんじゃない?

 ラムル村のホルスが増えてから、売り出せばいいかとね」

 ルンデルは頷く。

「それに、服従させた後は飼うことで人に慣らす必要がある。

 ホルスとラムル村の人との仲が良いから、言うことを聞くんだと思う。

 すでに一年以上は付き合っているんだ、その信用が無ければホルスとて魔物、暴れればけが人が出てもおかしくない」

「わかりました。

 商人たちには御用商人であるルンデル商会のほうから断りを入れておきます」

 ルンデルはハイデマン男爵家の御用商人になっていた。

「お願いします」

 こうして外にホルスは売らないことになる。

 

 しかしこのあと、ラムル村に商人にそそのかされた冒険者の家畜泥棒が増えるようになる。

 と言っても、アベイユミツバチによる麻痺攻撃により、次の日には騎士に拘束され犯罪奴隷として売られていく。

 お陰で男爵領のちょっとした収入源になるのだった。

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