第44話 戦勝会です。

 そして、戦勝会。

 ケインは貴族風の服を仕立て、王の前に立つ。

「おお、ハイデマン男爵。

 トーナメント以来か……」

「私も誇らしい事で王にお目にかかることができ、嬉しく思います」

 ケインは頭を下げた。

「それにしても、鉄壁のバルトロメを倒すとはな。

 爵位を与えた儂も鼻が高い。

 直属にしたラインバッハ侯爵も人を見る目を持っておるな」

 クレールも軽く頭を下げた。

「さて、功一等のハイデマン男爵に何の褒賞を与えるかということになるのだが……。

 本来ならば爵位を上げることを考える。

 しかし、先日男爵にしたこともあり、それは難しい。

 そこで、ミルドラウス侯爵に聞いたのだが、騎士の数が足りぬとか?」

 王が聞いてきた。

「ハイデマン男爵家の騎士団長は鬼神です。

 仕官の希望者は来たのですが、篩の目が大きく、鬼神の眼鏡にかなう者は居なかったようです」

 ケインが言うと、

「そうかそうか、では、王都の騎士団の一部をそちらにまわそう。

 防衛用の騎士団ではあるが治安維持のみに動いているだけの状況だ。

 五百人ほどいるが、実戦を経験させても良かろう。

 そこで、中隊を預けたい」

「そうしていただければ助かりますが……」

 ミルドラウスがニヤニヤしている。

(まさか?)

「うむ、それではミラグロス・ミルドラウスを筆頭にその部隊五十一人をハイデマン男爵家の配下とすることで、今回の戦功への褒美とする」

(あっ、やられたわこれ……。

 学校は無理だから、うちにブッ込んできた。

 クレール様も平静は装っているが、内心焦ってるみたいだね。

 そして王からの言葉……俺は否定できない)

「謹んでお受けします」

 ケインはそう言った。

 

 ケインが王の前から去ると、ラインバッハ侯爵への褒賞。

 そして、総大将たるミルドラウス侯爵への褒賞が続く。

 それが終わると別の部屋に行って立食パーティーのような物が始まった。

 夫人や娘を連れてきていいという話だったので、カミラには俺の傍に居てもらっている。

 黒のマーメイドラインのドレス。

 ドレスが白い肌を引き立てていた。


 その周りに、エリザベス、ライン、レオナ、そしてルンデルが居た。

 年齢相応のかわいらしいドレスを着ている。

 ご学友ということで、ケインが話をするのは問題ない。

 カミラも三人と話をしている。

 王女、侯爵、豪商の娘の鉄壁のディフェンス。

 それをぶち破るものが現れる。


「ハイデマン男爵、あれ以来だな」

 ミルドラウス。

 そして、

「ケイン殿。

 先日は失礼しました」

 赤いドレスを着たミラグロス。

「ミルドラウス侯爵。

 お久しぶりでございます。

 今回の褒章はミルドラウス侯爵の進言だったようですが?」

「今回の活躍を聞いて、ハイデマン男爵の下に騎士を送るのはどうかと陛下に進言したのだ。

 あの戦いの中、ハイデマン男爵の下に五十人も居ればもっと功績をあげられただろうに」

 近づいてくるクレール。

 気にせず、

「我が娘が失礼をしたようだが?」

 とミルドラウスは聞いてきた。

「いいえ、一度お手合わせをしただけですから」

「にしても、我が娘が一撃か。

 無手だったそうではないか?」

「ちょっと遊びが過ぎたようです」

「そのせいで、我が娘はお前を気に入ったようだ。

 我が娘は強さにのみ興味があって、爵位になど興味は無い。

 儂もその意見には賛成でな。

 強ければ爵位などあとから付いてくる。

 そこで、今回の褒賞の部隊を我が娘ミラグロスの部隊にしてもらった。

 後は手を付けようが放り出そうがお前の好きにすればいい。

 ただし、ちゃんとした理由が無ければ儂が動くから覚悟はしておいてくれ」

 ジロリとミルドラウスはケインを見るのだった。

(そりゃもう押し付けでしょうが?

 これ、逃げられない奴だよね。

 はあ……)

 ケインはため息をつく。


 ケインが顏を顰めていると、

「ハイデマン男爵は我が娘を欲しいと言っており、現在婚約に向けて話し合いをしている最中です。

 その事はお忘れなく」

 とラインバッハ侯爵が釘を刺した。

(俺は何も聞いていない)

 チラリとラインを見ると。

 にんまりと笑っている。

(「してやったり」って感じかね?

 クレールになのか、ミルドラウスになのか……)


「ほう、そんな話が。

 であれば余計にハイデマン男爵の下にミラグロスを行かせて良かったな。

 ハイデマン男爵が私とラインバッハ侯爵の間を取り持ちそうだ。

 まあ、あとは若い者で話せばよい」

 そう言うとミルドラウス侯爵は去っていった。


 ミラグロス様が固まっている。

 男性社会の騎士として話をするのは得意でも、女性の中で話をするのは苦手なようだ。

 それ以外の女性陣もひそひそ何かを話していた。

 そして、

「ミラグロス様。

 何かお飲み物は?」

「でっでは、ワインでも……」

 カミラが優雅な動きで、ワインを持ってきた。

「どうぞ」

 そう言ってミラグロス様に渡す。

「カミラって、こういう所に慣れているのか?」

 小声で聞いてみた。

「まあ、それなりに……。

 潜入する必要もありましたし、実際に体験もしています」

「そう言えば、カミラの出自って知らないな」

「そのうちわかります。

 手紙も来ましたので……」

(ん? 手紙?)

 ケインが首を傾げる。


 そして、女性陣五人で話を始めた。

 話を聞くに、序列の問題らしい。

 表向きのモノ。

 裏のモノ。

 表の序列ではミラグロス様が三位。

 裏の序列ではミラグロス様が最下位ということになっていた。

 ちなみに表の一位がエリザベス。

 裏の一位がカミラである。


「この序列に納得ができるなら、この中に入ればいい」

 カミラが言うと、

「お願いします」

 とミラグロスが頭を下げていた。


(ミラグロスは呼び捨てで……と言ってきた。

 ミラグロスより俺のほうが強いかららしい。

 そんなもんかね?)

 その後、ミラグロス以下十名は王都の屋敷へ、残りはラムル村に行きベルトの下についてもらうことにする。

 翌朝の訓練でカミラにコテンパンにされ、ミラグロスは俺達の本当の実力を知る。

 そして、王都でもラムル村でも激しい訓練が毎日行われるようになるのだった。

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