第33話 年越しをしました。
王都に雪が降る。
台所でケインは熱い紅茶をポットに準備していた。
そして、クッキーも。
「この世界でも年が変わるのは冬なんだよなぁ……」
キッチンの窓からのぞく暗い空を見ながらケインが言った。
「年が変わりますね」
寄り添うカミラ。
「そうだなぁ……、年が変わる」
ケインは肩を抱きカミラを見た。
「ドーン……ドドドーン!」
窓から色とりどりの光が見える。
「花火が上がり始めたか……。
屋根に出て、一緒に見るぞ」
ケインはそういうと次元収納にティーセットと
「ええ、そうしましょう」
カミラが頷く。
厚手の外套を羽織り、身体能力を使って屋根に上ると二人は花火を見る。
ケインとカミラはひょいひょいと屋根を飛び越えた。
近くにある尖塔の上まで行くと、ケインが座り、トントンと隣を叩く。
カミラはその場所に座った。
ケインは次元収納からティーセットを出すと、カップに紅茶を注いだ。
「ほい」
カミラに差し出すと、カミラは受け取って一啜り。
「暖かい……」
ホッと一言。
ケインは毛布を取り出してそんなカミラを包んだ。
「これもまた暖かいです」
カミラが寄りそう。
花火を見るカミラが、
「私は楽しい一年でした。
学校祭や打ち上げにも参加できましたし、私に妹のような友達が出来ました。
旦那様と色々な所にも行きました。
来年の目標は、旦那様に抱いてもらうことでしょうか?
十四歳になりますからね」
と言ってケインを見る。
「まあ、成人だからなぁ……」
「成人だから?」
ケインを覗き込むカミラ。
(ああ……違うよな)
「カミラが欲しいから、カミラを抱く。
足枷として成人してから……っていうのがあるからできないだけだ。
誕生日には、思う存分堪能させてもらいましょうか」
ケインが言うと、
「私も楽しみにしておきます」
カミラは満足げに頷いた。
クッキーをポリポリと食べながら、二人は花火を見る。
「これってあれからですね」
「俺のことが分かってから?」
「ええ、旦那様がいろいろ出来るようになって、年が変わる時、花火を見ようって誘ってくれた」
「カミラって、神祖だから、長寿種の余裕なのかあまり時間を気にしなかったからなぁ……。
『こういうのもあるよ』って思って誘った訳だ」
ケインが説明を終えるとサムズアップでカミラを見た。
「それから、年替わりの日は、旦那様と花火を見るのが当たり前になって……」
カミラが遠くを見る。
「俺の方が先に年を取るんだろうなぁ……。
オッサンになった俺が若いカミラを連れるのか……。
なんだか優越感」
すると、カミラが悲しい顔をする。
「それは……多分……」
と何かを言おうとした時、
「ん?
それは仕方ないだろ?
人間っていうのはイイトコ七、八十歳までだろう。
栄養状態のよくないこの時代なら五十や六十もあり得る。
まあ、可愛い嫁さんもらえるんだ。
それはそれでいい人生かも……」
とケインが言う。
そして、
「何か言おうとしたか?」
とケインが聞くと、
「いいえ、何も……」
カミラは言葉を濁すとケインに体を預ける。
ケインは毛布で温まりながら、様々な色の大輪の花火に変わるカミラの顔をじっと見ていた。
------------------------
(ケイン……何してるんだろ……)
カミラさんと一緒なんだろうなぁ……。
花火見ているのかな?
いいなぁ……)
レオナはテーブルの椅子に座り、両肘をついて顎を置くと、食堂の大きな窓から花火を見ていた。
「レオナ、どうしたんだ、物憂げに……」
首を傾げながらルンデルが聞くと、
「『ケインとカミラさん、寄り添って花火見ているんだろうなぁ』ってね……」
レオナは目だけをルンデルに向ける。
「行くか、誘うか、すればいいだろうに……」
ヤレヤレとルンデルが両手を広げると、
「そうなんだけどねぇ……。
でも、まだ、あの間には入れない。
ケインは努力してるけど、私はまだ足りない気がする。
お父様、私どうすればいいのかな?」
レオナが言った。
「んーそうだねぇ……、私の娘だからできること……。
お金を稼ぐ手伝いをしては?
または、その知識を手に入れてはどうだい?
ケイン様の知識のお陰で我がルンデル商会は栄えている。
その利益をさらに大きくできるようにすれば、ケイン様が追い求める者の手助けができるんじゃないのかい?」
ルンデルが言うと、
「結局そうなるわよね。
確かに、リズやラインには貴族を相手してもらって、私は商人としてお父様とお金稼ぎ」
ウンウンと頷くレオナ。
しかし、レオナが少し考えると、
「私って、追い求められていないの?」
ルンデルに言った。
「勘違いしちゃいけないよ?
レオナは商人の娘。ケイン様の身近にいる。だから、好きだと思えば手が届くだけ。
ライン様やエリザベス殿下は好きだからと言って手を伸ばせば届くかと言えばそうじゃない。
だから、追い求めなければいけないんだ。
その手伝いができるってことはケイン様に近付けないかい?
それに、レオナはあの二人がいいのでは?
お前が帰ってきてする話は、ケイン様とエリザベス殿下、ライン様の話ばかり」
「まあね。
こんな関係がずっと続けられたらなぁ……って思う」
「多分な、ケイン様はその中にカミラ様が混じって四人で……。
まあ、あんな方だから増えるかもしれないが……。
今は四人で居られるように頑張っているんだよ。
私はレオナが好きなケイン様のために力を尽くそうと思う」
「私が好きだからだけ?」
レオナがルンデルを見た。
「まあ、命を救ってもらった恩もある。
ルンデル商会が王宮内で名が売れた恩もある。
更にはレオナがケイン様を好きっていうのなら、父さん頑張るぞ?」
「親子でケインが好きな訳ね。
惚れたもん負け?」
「そうかもしれないな。
私もレオナもケイン様が好きなんだろう。
だから……」
「ええ、ケインのフォローを頑張るわ。
ケインが何をしたいか……っていう情報を渡すから、お父様頑張ってね!」
「ああ、任せなさい!」
ルンデルは大きく胸を張るのだった。
------------------------
リビングで、
「あーあ、今年もクレールお父様と年替わりの日を迎えるなんてね……」
ヤレヤレとラインが手を広げる。
「嫌なのか?」
クレールはラインを睨んだ。
「去年と同じっていうのがね」
ラインはフウとため息をついた。
「まあまあ、ラインにもケインっていう想い人ができたみたいだから」
ラインの母親であるミーナが言うと、
「何! 誰だそれは!」
クレールは大きな声を上げてラインを見る。
「どこの馬の骨だ!」
「言ったでしょう? 鬼神と魔女の息子よ。
ああ……あのお菓子……。
また食べられないかしら……」
「ああ、ミーナに言われて、すごすご屋敷を出て行った奴か」
クレールがニヤリと笑うとラインはクレールを睨み、
「何を言っているの!
ケインは自分の立場を理解しているからそう言ったの。
私はケインが成り上がるために自分ができることをするからね!
仕えるのなら、お父様だろうがお母様だろうが使うから!」
と声を上げる。
「あらあら……」
ミーナが言うが、
「いつかのミーナみたいだな」
とクレールに言われ、何かを思い出したように、
「もう、言わないで!」
ミーナは頬を染めていた。
「お母さまが?」
ラインが聞くが、
「ああ」
とクレールが頷いたあと、ミーナの指がクレールの口を塞ぐ。
「さあ、今日は愛しい人と年を越す日です。
まだ、その相手も居ないラインを放って、私たちはベッドに……」
そういうと、クレールの腕を極め、
「イタタタ……」
というクレールを引きずってミーナが寝室に向かう。
それを見送りながら、
「まあ、あれはあれで羨ましいのよねぇ……。
私も頑張らないと……」
ラインは言うのだった。
------------------------
エリザベスとエリザベスの兄であるフィリップ、王妃でありエリザベスの母親であるマリー、王であり父であるバージルがバルコニーがある部屋で花火を見ていた。
「今日の花火はまた一段と綺麗……」
マリーが言うと、
「そうだな。花火職人が手を尽くしたのであろう」
バージルが頷いた。
「それで、エリザベス。
ケインと言う少年がやっていることを知っているか?」
クレールからのいきなりの質問に、
「えっ……ああ、知っております。
私のクラスメイトですから」
「そのクラスメイトがリンメル公爵の所有だった村で、面白いことをしておる。
王宮で使うアベイユの蜜はそこからだそうな。
そう言えば牛乳も王宮に届けられておったな」
「ええ、それはわたしのためです。
美容にいいと聞きまして……」
すると、エリザベスの言葉に、
「何? 美容じゃと?」
マリーがエリザベスを見た。
「はいお母様、実際、胸が少し育ったかと……」
「むっ胸が育つじゃと?」
「これもケインの知識です。
おかげで」
エリザベスがクスリと笑うと、マリーがメイドを呼び、話をするとメイドは去っていった。
「リズがいつも言っている少年がここまでやるとはな。
リズとしてはケインと言う少年をどう思っているのだ?」
バージルはエリザベスを見る。
「私は……お慕いしております。
身分違いだとは知っていますが、ケインはできるだけ努力すると言ってくれました。
私はできるだけ手伝おうと思っています」
エリザベスが言い切ると、
「リズも女の顔をする様になったのじゃな」
マリーが笑う。
「リンメル公爵を失脚させる口実を作ってくれた少年だ、何かあれば私も考えよう」
バージルが頷いた。
「次の年には学校祭のトーナメントがあります。
エリザベスが言うには、そのケインと言う少年は強いらしい。
無詠唱が使えると聞きます。
有終の美を飾るべく、私は剣術魔術混合で勝利して、全てのトーナメントを制覇した者として学校を出て行きたいと思います」
「私とケインでお兄様に勝って見せましょう」
エリザベスが胸を張った。
------------------------
夜は更ける……。
そして、新しい年になるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます