おもに鶏肉などの具材に串を打って焼いたもの
ViVi
焼き鳥が登場しない回
いや、そもそもおおむね一般的な味覚をもつ日本人で、焼き鳥が好きでない者など、そうはいないだろう。
焼き鳥とは、非常に普遍性の高い料理だ。これは「普及している」という意味ではない。あるいは「汎用性」といえば、よりわかりやすいかもしれない。
説明しよう――焼き鳥の要件とは、「おもに鶏肉などの具材に串を打って焼いたもの」である。具体的な鶏肉の部位や、味付けについては、とくに共通的な解があるわけではない。
部位がちがえば、もちろん脂の量や食感が違う。豚バラやベーコンなど、鶏肉以外の具材を使うケースもままある。
メジャーな型である「ねぎま」にしたって、「ねぎ」の部分は、当然、鳥ではない(ネギバード・シャークでないかぎり)。焼き鳥といいつつ、鳥以外のものに串を打ってもよいのだ。
味についても、塩コショウ、塩ダレ、醤油ダレなどが多くみられるが、それがすべてではない。柚子胡椒やわさび、唐辛子ペースト、山椒などをアクセントにつかう者はしばしばある。極論、塩ひとつとっても多様だ。塩の種類がちがえば、味わいは大きく変わってくる。
このように(かなりの字数をついやして述べてきたように)、焼き鳥とは、多様性・汎用性を内包した料理なのだ。
それゆえひとびとは、己の好む具材を、己の好む味で食べる。だから「焼き鳥」という総合的なラベルに対して、おおむね「好き」という感覚をもつのである。
しかし、その
「いやこれは焼き鳥じゃないっしょ」
ツッコまざるを得ない状況が起こっていた。
場所は、個人の自宅。
そのやりとりの折、
そうしてふたを開けてみれば、
「これは焼き鳥じゃなくてフライドチキンっしょ」
というわけだった。おわかりいただけただろうか。
「いや、広義の焼き鳥だよ」
「焼いてないじゃん」
「鳥ではあるでしょ。ところで、“焼く”と“炒める”の違いってわかる?」
「面倒なことを言い出したな。あるていどの指針はあっても、個々人や文化圏によってけっこう変わってくるやつじゃん」
「そうそう。つまり“焼く”と“炒める”のあいだに違いはない」
「乱暴なことを言い出したな。違いがどうとか先に言ったのは
「ここで問2」
「なにを言いたいのかはわかるけど、まぁ言ってみなさい」
「“焼く”と“揚げる”の違いってわかる?」
「そら来た。油量が多めで“焼く”ときと、少なめで“揚げる”ときのあいだに、明確な違いがあるかっていわれると、まぁ、ちょっと困るよね……って回答したくねぇー」
「そう。つまり“焼く”と“揚げる”のあいだに違いはない」
「ほっとくと茹でたり蒸したりしそうだなコレ」
「
「なんだこいつ……。なにいってんのはあんただよ」
「この揚げた鳥は、焼き鳥なんだってこと」
「揚げたって言っちゃってるじゃん。揚げたひとが揚げたって主張してるなら、それは揚げた鳥であって、焼いた鳥こと焼き鳥ではないよ」
「揚げた鳥こと、揚げ
「それは商品名だろ。字はちがうけど」
「焼き鳥は一般名詞なのに揚げ鳥は商品名……今日はこれだけ覚えて帰ってください」
「追い返そうとしてくるな。
「ひっかけにひっかからないとは……たいへんよくできました」
「“問2”とか言い出したあたりからだいぶだったけど、なんなんそのキャラ付け」
「“焼き鳥を買ってあったのは本当なんだけど、きのうつい食べちゃって。まぁ買い直そうとしたものの、たまたま売り切れてて、それをトークでごまかそうとしている、小粋な女子”」
「買いすぎたっていってたくらいなのに、ぜんぶ食べたのか。ひとりで。というか約束したの三日前なのに、今日まで待てなかったんか。あとなにも誤魔化せてないし、ついでに自分で“小粋”とか言うな。キャラとしてもかなりめちゃくちゃだよ」
「怒涛の揚げ足とり! 揚げ
「揚げ
「こいつは一本とられました」
なんだこいつ。
おもに鶏肉などの具材に串を打って焼いたもの ViVi @vivi-shark
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