魔法女子大学進学予備校「魔女っ子塾」

@Okamonmon

第1話 3月「浪人」

 忘れもしない3/7、私は魔法女子大学に不合格になった。

 私、桜サキは、魔法使いの両親のもとに生まれ、世界でもトップクラスの魔法大学「魔法女子大学(魔女大)」への合格者を毎年多く輩出する名門中高一貫女子高「梅陽高校」の生徒であり、その主席でもあった。

 全国学力模試では常にA判定、そんな私がまさかの不合格。

 その後はあまり覚えていないが、学校に報告に行くときに横を通る彼女らの幸せそうな顔だけが印象に残っている。「彼女は確か、A学だったかしら・・・」「ああ、彼女はT大志望だったわね…」そう呟きながら職員室へ向かっていく。

 中年の男性担任に受験結果を伝える、そこで彼は何か言っていたが私にその言葉は届かなかった。

 卒業式も何も覚えていない、頭にあったのはこれからの不安だけだった。

 3/15、私は母に呼び出された、今後の話し合いだ。両親は浪人を勧めてくれた。しかしその優しさが胸にとげのように刺さる。6年間私立に通わせてくれて、予備校にも行かせてくれて、その挙句この様だ。もう少し叱咤されても文句は言えないだろう。しかし両親はそうしなかった。

 その優しさが私の心を締め付ける。

 結果、私はもう一年魔女大を目指し浪人することにした。

 三月の終わり、予備校に通い始めることにした。

 中高で通っていた塾は高卒生は募集していない、なので新しく探す必要があった。しかし、魔法大学の試験はほかの大学、学部と比べて試験が特殊だ、なので普通の予備校で普通の授業では合格は厳しいだろう。

 大手の予備校のチラシに目を遣る。「再スタート」なんとありきたりな言葉だろうか。しかし、私は高校生でも大学生でもない中途半端な人間なのだと言われているような気分になった。

 家に送られてきた予備校のチラシを読みふけっていると「魔女っ子塾」という何とも言えないネーミングセンスの全寮制個人塾を見つけた。神奈川県横浜市に位置する小さな予備校で、教師は美人の魔女大出身者だという水仙ルリと名乗る女性。授業料全額無料の給費生募集中で個人経営で全寮制。さすがに怪しいとは思いつつも、私は何より実家から、両親のやさしさから逃げたかった。

この決断が私の人生の歯車を大きく動かすことになるとは知る由もなく、私は面談の日を迎えた。

 横浜市の東部、本牧に居を構える魔女っ子塾は非常にアクセスが悪い。横浜駅からバスで40分、電車はない。何故こんな辺鄙なところに来ているのか。バスを待っている間、おとなしく大手予備校にしておけばよかった...と後悔していると突然後ろから声をかけられた。

「お前が桜サキじゃな?よく来てくれたな。」

 オープンカーに乗った学長の水仙ユリが話しかけてきた。艶めかしい四肢に整った顔立ち、天は二物を与えずとは嘘だったようだ。などと考えていると、

「ほれ、乗りなさい。予備校まで送ろう。」

私は2シーターのオープンカーに乗り込むと質問をされた。

「魔法使いになるために必要なものはなんじゃと思う?」

 これはよく聞かれる質問だ、個人的には才能だと思うが、彼女が求めているものはおそらく堅実な答えだろう。

「勇気や努力の積み重ねでしょうか?」

「才能じゃ馬鹿者め。」この人嫌い。続けて質問を受ける。

「魔女大は2つの試験に分けられる、学科試験、そして実技じゃの。おぬし前回の学科は何点じゃ?」

「95点です。」

「ほう?流石は梅陽といったところじゃの。では質問じゃ。先に挙げた2つの試験、どちらのほうが重要視される?」

「実技です。」

「そうじゃ、魔女大入試は学科3実技7の割合じゃの。それで?実技試験に重要なのはなんじゃ?」

「・・・才能です」

「つまりおぬしには才能は?」

「・・・」

「分かったなら大人しく普通大で生活したほうがいいと思うぞ。お主なら最高学府も目指せよう。」

 分かっている、私には才能はない。魔法使いの親の元に生まれながら才能がないのだ。決して魔法が使えないわけではない。寧ろ強すぎるのだ。

 前回の試験は「10個の的の中心に火球を当てる」「チーム対抗での陣取り合戦」

という2つの内容で行われたが、前者の試験では緊張で火球が大きくなり、中心以外にもあたって減点。後者の試験では、仲間にも攻撃が当たってしまい、減点となった。

魔女が発動した魔法を使う生活が当たり前のこの世界で「魔法の制御」これはもはや魔女にとって「常識的な行為」なのだ。それができない私は大学にとって必要ない、しかし私は魔女大に入りたい、入らなければならない。

「分かってるわよ…」私はポツリと呟いた。心に留めておいた思いが全て溢れ出る。「分かってるのよ!私に才能がないことなんか!それでも私は魔女大に入りたい!入らなければならないの!!!!」

すると彼女はにやりと笑って

「なるほどのう・・・カッカッカ!面白い!そこまで言うのならば入塾を許可しよう!!!!入塾、入寮は4月に入ってすぐじゃ!予備校に付いたら書類を渡すからの、親に渡しなさい。」と笑い飛ばした。

 その後はまるで超特急のように時間は過ぎた。入寮の手続き、入塾の手続き、引っ越し準備などで時は目まぐるしく過ぎた。

そして4/1入寮の日、私の人生の再スタートが切られた。





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